なぜ絶対に治りますよと言えないか
鍼灸院を訪れる方は、標準治療を医療機関で行っている(または十分に行った)場合ががほとんどです。何としてでも早く良くなりたいという気持ちが強いことが多い印象です。一定の割合で以下の質問を投げかけられます。
私の病気は絶対に治りますか?
鍼をしたら一回で治りますか?
しかし、残念なことに、「絶対に治りますよ。」「すぐ治りますよ。」といったことは言えません。EBM(根拠に基づいた医療)に基づいた所謂(治療成績や効果などの)科学的根拠というものは、過去のデータを解析した結果に過ぎません。そのため、その患者さんを対象としたデータは存在せず、未来について起こることに対し、医療者は非常に無力なのです。
例えば、”一年以内の脳卒中再発率は5%で、10年以内に半数の人が再発する・・・。”というような話ですが、目の前にいる患者さんが再発するかどうかは誰にもわかりません。治療方法も同様に、効果があるとされていても、あなた自身の症状が100%改善するかどうかは誰にもわかりません。
一部の方は、この話を聞いて「100%ではないものにお金をかける必要はない」と考えるかもしれません。とくに、自費施術が原則の鍼ではなおさらです。しかし、前述の考え方は、なにも鍼灸に限ったものではなく、医療における普遍的な”曖昧さ”でもあります。そのため、鍼灸だから”曖昧”では、、、と言ったバイアス(偏見)だけで受療をあきらめることは非常にもったいないことです。
また、医学的に効果があるという意味は「治療をしなかった場合よりも、治療したグループの方が結果は良かった。」ということです。効果が期待できる場合は、一定期間試してみることは、決して悪いことではないでしょう。
鍼灸師の出来ること
鍼灸師が担保するものは、鍼灸術(施術)になります。医療情報を提供した上で、EBMに基づいた施術を行うことが”適切な仕事”となります。すべての患者さんの症状改善を担保することではありません。もちろん、最善を尽くさなくてよいという意味ではありません。
鍼灸師の”適切な”仕事:
医療情報の提供
インフォームドコンセント(説明と同意)
EBMに基づいた施術
同じ施術を行っても、患者さんによって治療成績はまちまちです。だからと言って、施術者の腕が悪いとは一概に言えません。患者さんの状態によっても成績が左右されるからです。
例)脳卒中は急性期からの治療(または併療)のほうが治療成績はよく、時間経過とともに成績は落ちていく。
また、適切な施術間隔を提示しても、通院コンプライアンスが守れていない場合は、治療成績が落ちることも考えられます。残念ながら、来ない患者さんを手助けすることは出来ません。そのため、医療者がコントロールできない部分を担保することは出来ません。医療者が治しているようにみえますが、実際は患者さんの協力なくしては成り立たないのです。
適切な通院を心掛けることが症状改善を目指す第一歩となります。一定の治療期間(施術期間)を待たずに転院を繰り返すことは症状改善の妨げとなるため、おすすめしません。もちろん、健康保険利用の場合は、初診料がかさんだり、不必要な財政負担へと繋がるため注意が必要です。
最後に
鍼灸は代替医療に分類されています。代替医療とは、標準治療である現代医療を補う医療という意味です。もちろん、併療によって相乗効果が期待できます。標準治療を受けたあとに治療成績が著しくなかった、、、という理由から、代替医療を試してみようと思った場合は、ぜひ利用してみて下さい。
また、「絶対に治りますよ。」「絶対に治せます。」という甘言は信じないようにしましょう。医学的・科学的にはありえないことです。代替医療をどこで受けるかを選択する上でも、重要なポイントです。