物忘れ関連の質問で、よく聞かれるのは、「一般的な物忘れ」と「認知症」はどういった違いがあるの?といった話があります。アルツハイマー型認知症(AD)を例に取ると、よく言われているのが、「エピソードを覚えているかいないか?」「日常生活に支障があるかどうか?」「ゆっくりと悪化していっているかどうか?」
とくにエピソードに関しては、一般的な物忘れでは「昨日の夜ご飯の内容が思い出せない。」などエピソード自体は忘れていないことが多いです。逆にADの場合は、エピソード自体を忘れてしまうことが多々あります。
ここで重要なことは、エピソードを忘れてしまっている場合は、本人に認識がない場合があります。「忘れてしまっていることを忘れてしまっている」と言えます。
では周りの人(家族など)が見ていればわかるかどうか?ですが、確かにエピソード自体を忘れているのであれば、すぐ早期発見できそうなものですが、実際はそんなに簡単ではありません。
物忘れの自覚がない場合は、問診型の簡易検査などに非協力的であったり、「そんな誰でも答えられるようなことを聞いてきて失礼なやつだ」と時には腹を立ててしまうといったこともあります。
それ以外に、「取り繕い反応」といった行動パターンを示します。「取り繕い反応」は非常に巧妙で、周りの人(家族)は認知症だと気付かずに発見までに時間が掛かってしまう場合が多々あります。
季節や曜日などを間違えても、「この歳になると、曜日なんてとくに気にしてないよ。」と言った具合にはぐらかされたり、世間話で辻褄があわないと「そんなことあったっけ、他の事に気を取られていたから気に止めてなかった。」「今日は熱っぽいから、頭が働かないのかな」と答えたりします。周囲の人は「受け答えもしっかりしているから大丈夫」と安易に思ってはいけません。ポイントは「表面上の受け答えはできているが、本人は質問に答えていない。」というところです。
そのほかに、「振り向き兆候」といって、質問に答えられない場合、周囲の人に解答や助けを求めたりします。問診や簡易検査実施時によく現れます。「そういえば~だったっけ?」のように相槌を求めたり、確認をするのも「振り向き兆候」の一つです。
こういった「取り繕い反応」や「振り向き兆候」を見逃さないことが重要です。また、「同じ話をくりかえす、着替えができなくなった、料理の味付けがおかしいなどの行動が繰り返される場合は専門的な医療機関への相談・受診をおすすめします。
「取り繕い反応」は認知症の発見を遅らせるばかりではなく、体調不良などの発見も困難にさせます。いつも健康だと本人は言っていたが、実はトイレで下血していたなど。
取り繕い行動の根底にあるのは「周囲の人を困惑させたりしないように、できたら心地よく過ごしてもらうため、普通のふりをすることに全身全霊を投入する」と言われています。本人やご家族のためにも、早期発見をすることが重要であると感じています。
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