前回の記事(やっぱりミラーバイオフィードバック法は大事 (sanshou-hari.com))で「ミラーバイオフィードバック法は大切ですよ!」という話をしました。ミラーバイオフィードバック法は、鏡を見ながら顔を動かす方法ですが、単なる表情筋のトレーニングではなく、中枢(脳)での運動ネットワークの再構築を目標にしたリハビリです。
本稿では、関連する研究として、高橋(2014)による「ボツリヌス毒素・ミラーバイオフィードバック療法の併用」に関する研究に触れた上で、著者の所感も述べていきます。
1)関連する研究の紹介
◆研究成果の概要(転載):
高橋美香. ボツリヌス毒素・ミラーバイオフィードバック療法のFMRIによる検討. 2014
末梢性顔面神経麻痺の後遺症である病的共同運動を治療するために、ボツリヌス毒素・ミラーバイオフィードバック併用療法を施行した。治療前後でfMRIを撮影して、閉眼運動と口尖らし運動により賦活される大脳皮質運動野を確認すると、治療前には両運動の賦活部位は重なりを認めたが、治療後にその重なりが減少して両部位が分離した。また、病的共同運動の治療の開始時期は治療効果に影響がなく、併用療法後に病的共同運動が軽快してもミラーバイオフィードバック療法を継続しなければ再度病的共同運動が悪化することから、併用療法がcortical reorganaizationにより効果を発揮していると考えられる。
ポイントをまとめると、以下の通りになります。
病的共同運動は、中枢レベルで運動の同期が生じている
ミラーバイオフィードバック実施によって、中枢レベルで運動が分離する
治療の開始時期と治療効果に影響はない
軽快後もミラーバイオフィードバック法をしなければ悪化する
2)著者の所感
病的共同運動は「再生した神経の迷入・混線で生じる」と言われていますが、正しい運動を再学習し、中枢の運動ネットワークを再構築することで、同期していた運動を分離することが可能と考えます(cortical reorganaization、皮質再編成、脳が失った機能を再獲得する)。
一般的に4~6か月程度で顔面神経の再生・接続が行われるとされています。そのため、「麻痺が残存したケース」や「病的共同運動が生じたケース」は後遺症を残し、治癒が困難(いわゆる「治りません。」)と言われることが多いですが、臨床においては、一年を過ぎた陳旧例でも回復していくこともあり、高橋(2014)の研究報告にある通り、著者もミラーバイオフィードバック法の有用性を実感するところであります。とくに、ミラーバイオフィードバック法が実施されていないケースでは、実施による改善の可能性があると感じています。
そのほか、運動ネットワークの再構築(cortical reorganaization、皮質再編成)は、顔面神経麻痺だけに限局したものではなく、「脳卒中における片麻痺でも同様の現象が生じる」と言われています。下記の記事のように、損傷部位に応じて、臨機応変に機能の再編が行われていくとされており、これが「中枢神経(脳・脊髄)は再生しないと言うけれど、ではなぜ機能回復が生じるのか?」の答えと言えます。
公開論文:Frontiers | Lesion Area in the Cerebral Cortex Determines the Patterns of Axon Rewiring of Motor and Sensory Corticospinal Tracts After Stroke (frontiersin.org)
私たちは、「何かと目に見える局所に着目しがち」ですが、「中枢(脳)の関与」を忘れてはなりません。また、運動の学習には一定の時間が掛かるため、目的を明確にした上で継続実施していくことが大切です。