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三焦鍼法:鍼で認知症状を改善できる?

2008年、天津中医薬大学第一附属病院の韓景献教授による老化現象に対する新しい学説が発表されました。古来より、様々な角度から、老化現象に対する中医学的な説明がなされてきましたが、韓景献教授による「三焦気化失常と衰老相関説」という新概念は、非常にユニークで、画期的なものです。また、国家の重要論文として選出されました。

 

どこがユニークで画期的なのかといえば、例えば、今までは「老化するということはAという現象が起きることだ。」という説もあれば、「老化するということはBという現象がが起きているということだ。」という説があったわけです。そこで、「このAであるとかBであるとか、そういった現象を説明している学説(先天説、後天説、臓腑虚損説、精気神虚損説、陰陽失調説、気虚血瘀説、津液不足説、邪実説、気運失常説など)は、老化現象の一部分だけをみて提出されたものにすぎない。また三焦気化失常という説で今までの学説を説明することができる。」というのが重要なポイントです。

 

一体三焦とはなんでしょうか?体を大まかに上・中・下と三分割すると、胸部(心・肺)を上焦、腹部(脾)を中焦、下腹部(腎)を下焦と分けることができます。この上・中・下焦を合わせて三焦と言うわけです。


三焦の存在意義はなんでしょうか?なぜ重要なのでしょうか?第一に三焦は五臓をつなぎあう連絡通路であるということです。そこで、気・血・津液・精が作られます(気化作用)。この三焦気化(気化=物質の産生)によって正常な生命活動が維持されているとされています。非常に重要な器官といえるわけです。

 

この三焦気化を正常に運用し、生命活動が正常に維持されれば老化現象を防ぐことが出来る。その理念を形にしたものが、「益気調血、扶本培元鍼法(えきちょうけつ、ふほんぺいげんしんぽう)」(気を増し、血を整え、後天的な力を培い、先天的な力を養う鍼の方法)という鍼灸処方です。ただ、この名前はあまりに専門的すぎるため、現在では「三焦鍼法(さんしょうしんぽう/Sanjiao acupuncture)」という名称に変わりました。

 

SAM(老化モデル)マウスや、膨大な臨床研究の末に開発されたこの方法は、認知症(脳血管性・レビー小体型・アルツハイマー型・軽度認知症状)やパーキンソン病・多系統萎縮などの神経変性疾患に対して効果を発揮しています。また、比較的新しい手法なので、現在でも様々な研究がされており、応用方法や配穴(補助穴)方法が開発されています。

 

この三焦鍼法ですが、基本のツボは6穴(外関・血海・足三里・気海・中脘・ 膻中)・9か所となっており、それぞれに刺激方法(操作方法)が決められています。原則として体の状態を調節して、元気にさせようという方法ですから、強い刺激よりも、どちらかといえばマイルドな刺激になります。

 

認知症には、前駆症状として軽度認知障害というのものがあります。この時期での三焦鍼法介入が一番効果的であると言われています。最近の研究結果では、軽度認知障害からの認知症発症を予防できる可能性があることがわかってきています。アルツハイマー型認知症などは基本的には不可逆的な経過をたどります。一番大切なことは認知症に移行させないこと、そして症状を緩やかにさせることです。いかにして健康的である時間を延ばせるかがキーポイントとなります。画期的な三焦鍼法ですが、残念ながら進行した重度な認知症に対しては十分な効果を発揮できません。

 

現在、日本では日本老人病研究会(日本医科大学)がGOLD-QPD(ゴールドキューピッド)と冠したプログラムを組み、この「三焦鍼法」の普及・啓蒙・教育をしています。興味のある方は、こちらから日本老人病研究会のホームページをのぞいてみてはいかがでしょうか?

 

日本老人病研究会で紹介している鍼灸院ならびに医療施設で「三焦鍼法」を取り扱っています。また私は、天津中医薬大学にて留学中、開発者である韓景献教授の外来にて研修を受けました。当院においても「三焦鍼法」を取り扱っています。横浜市磯子区付近にて興味のある方は一度お問い合わせください。横浜市以外のかたは、ご自身のお住い付近の先生方に相談してみることをおすすめします。

[1] 韩景献. "三焦气化失常-衰老"相关论[J]. 中医杂志, 2008, 49(3):193-197.

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