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人中穴刺激による血圧上昇作用

有名なツボの一つに人中(じんちゅう)というものがあります。鼻の下にあるツボで、ヒトの急所とされています。この人中穴ですが、鍼をすると血圧が上昇することがわかっています。人中に関する一説では突かれると痛みのあまりに死んでしまうというような話も聞きます。たしかに、刺鍼をすると確かにズンと響いて涙が出てきます。


脳卒中(脳梗塞、脳出血など)に対する有名な鍼治療方法である醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)にはこの人中穴が含まれており、脳機能回復促進作用があると言われています。人中刺鍼は解剖生理学的に、三叉神経(第二枝、V2)という感覚神経を経由し、脳に刺激がいくという仕組みです。この人中穴刺鍼は強い痛みを伴うため、痛みに対する反応から血圧上昇が起こると考えられています。痛いのであればあまり良くないのではないか?と考える方もいるかと思いますが、、強い痛みは意識レベルを覚醒させる作用もあることから、脳機能回復作用もあるとも言えるわけです。


人中穴刺鍼の方法としては、鼻中隔方向(鍼先を斜め上に向ける)に刺激を行い、目が潤むか涙が出てくるまで刺激をします。意識レベルの低い入院患者さんに人中穴刺鍼をしたところ、意識がはっきりした、また、動物を対象にした基礎実験において、ショック状態のウサギに人中穴刺鍼を行ったところ、血圧がもとに戻ったという経験もあります。ただし、血圧上昇作用(30~40mmHg程度)があるため、出血性脳卒中発症後24時間以内は禁忌とされています。


人中穴刺鍼は痛みを伴うため、「やっぱり鍼は痛いのか、、、」であったり「痛いのであればよくない」または「痛いのであればいやだ」と考える方もいるかと思います。たしかに痛みを伴う治療方法に否定的な意見も理解できますが、むしろこの痛みが治療効果に結びついていると考えることも出来ます。逆に言うと、刺激量が不十分であれば本来期待できた効果は生まれない可能性が高いとも言えます。


また、意識がはっきりしている場合は、人中穴に変えて印堂(額)、上星(額)を使います。こちらの処方の場合は比較的痛みが少なく、代替の背景も刺激強度の調整目的(いわゆる痛すぎないように)とされていますので、ご安心ください。

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