脳卒中後遺症(脳梗塞、脳出血)などによって「嚥下困難(呑み込めない)」や「構音障害「(舌が回らない)」が生じることがあります。「嚥下困難」や「構音障害」などの舌や喉の運動機能障害は、誤嚥性肺炎のリスクが上がるため、注意が必要とされています。実は、こういった随伴症状に対しても鍼は有効といわれています。
当院では、嚥下困難や構音障害がある場合は、「廉泉(れんせん)」というツボを使っています。教科書どおりでは、喉仏のやや上方に位置しますが、嚥下や構音障害に対しては、顎側に2穴とり、「前廉泉(まえれんせん)」、「上廉泉(じょうれんせん)」としています。
前廉泉は、下唇の中央に指を置いて、そこから顎の方に下ろしていき、下顎骨の縁を超えた先にある陥凹部。そして、喉仏の上方(廉泉)と前廉泉の中点を「上廉泉」としています。
触って圧してみるとわかりますが、前廉泉は舌の位置、そして上廉泉は咽喉の位置にそれぞれ響く感覚があるはずです。鍼をする際には、その感覚が患部に直接届くような刺激を加えます。麻痺がある場合、何かが気の通り道を邪魔をしていると考えます。そのため、邪魔をしているものを取り除くために瀉法(しゃほう、比較的強い刺激)を施します。邪魔をしているものが取り除かれると症状が軽減・消失するという考え方です。
当院では口腔内への刺鍼は行っておりませんが、構音障害には、舌の表面や舌下静脈(金津、玉液穴)への点刺(鍼先でつんつん刺激する)、嚥下困難には、咽頭壁への点刺などを加える手技手法があります。
その他、遠隔取穴(遠位部のツボ)としては、内くるぶしの近くにある「太渓(たいけい)」と脛の上方外側にある「足三里(あしさんり)」が嚥下機能を改善すると言われています[1]。
参考文献:
[1]菊地 章子, 金子 聡一郎, 高山 真, 嚥下障害に対する鍼治療, The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 2018, 55 巻, 12 号, p. 978-983,