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少しよくなってくると通院をやめたくなる症候群。慢性疾患や進行性疾患の場合は症状が安定したあとも継続することが重要。


改善に伴い通院コンプライアンスは低下しやすいが、、、

少し症状が改善すると、心理的に「もう通院はいいかなー。」と思いがちです。しかし、忍耐強く継続していってやっと症状が安定するといったケースも多々あるため、安易に少しよくなったから通院をやめようという考えはおすすめできません。


とくに慢性疾患の場合は、中長期に渡って「症状がある」状態ですので、注意が必要です。例えば、加齢による退行性病変で変形を伴うものは(変形性腰椎症、変形性膝関節症など)は完全に治ることは難しく、ふとした拍子に、「しびれ」や「痛み」が戻ってくることがあります。ほとんどの方は、「保存療法(ケア・コントロール)」が中心となるはずです。


そのほかに、「五十肩(肩関節周囲炎)」も注意が必要です。別名「凍結肩(フローズンショルダー)」と呼ばれていますが、数日(または数回の施術)で痛みが完全に取れて、可動域も完全に改善するということはありません。一般的には、数ヶ月~数年かかると言われており、痛みが軽減しても肩関節の瘢痕拘縮を予防するためにも、鍼や運動療法を継続することが重要です。瘢痕拘縮してからでは、可動域改善はなかなか難しいと言われています。


ABAデザインからみた慢性疾患

1)ABAデザインってなに?

現在の研究手法は、RCT(ランダム化比較試験)が主流ではありますが、慢性疾患などに対する研究手法にはABAデザインというものがあります。


このABAデザインとは、ある慢性疾患に罹患している患者さんに対し、ある治療方法(介入)を一定期間行い、その後一定期間「何もせずに」様子を見るというものです。A(無介入時期)→B(介入時期)→A’(無介入時期)と繰り返すため、ABAデザインと呼ばれています。


研究では、Bで改善がみられたあと、A’(2度目の無介入時期)でベースライン(元の状態)に戻れば、治療効果があったと考えます。折れ線グラフはVの字になるはずです。


デザインの欠点としては、前提として中長期的に症状が安定していること(自然治癒しない)や、介入による持ち越し効果などが懸念されますが、本稿ではデザインの細かい説明は省略します。


2)理由も無くABAデザインを試す必要は無い。絶対に止めましょう

実は、ABAデザインは、倫理的に「完璧」とは言えません。なぜなら、時間をかけて治療介入をおこなっても、無治療期間を設けることで、患者さんの状態は「ベースラインの状態(悪い状態)」に戻ってしまうことがあるからです。


研究では、合意の上でこの「無治療期間」を設けますが、「症状改善(やコントロール)」を目標とした臨床現場では故意に「無治療期間」を設ける必要はなく、自らの体を使って効果を観察する必要はどこにもありません。そのため、改善がみられるようであれば、よい状態を保つために継続することが重要です。


さいごに

症状が改善されれば、「のど元過ぎれば暑さを忘れる」ではありませんが、通院自体おっくうになってきたり、本当に継続して治療する必要があるのか?と疑問を抱くことも往々にしてあるかと思います。


しかし、ご自身を悩ませている症状や傷病の性質から、どう対処していくべきか?を考えてみて下さい。もし慢性疾患や進行性疾患だった場合、「改善しているから治った。もう治療なんてやめよう!」とは思わずに、悪化防止(コントロール)のためにも、なるべく継続した治療を受けて下さい。悪化してしまったり、元に戻ってしまっては元も子もありません。一番苦しむのは、患者さんご自身ではないでしょうか?


一鍼灸師としては、患者さんの不利益になるようなことはなるべく行いたくありません。そのため、「少し改善してきたから、もうやめたい。」と相談された時には、「患者さんにとって、今やめてよいかどうか?」を念頭に置いたアドバイスをしています。


鍼に興味のある方はぜひご相談ください。

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