EBMは「根拠(エビデンス)に基づいた医療」とされています。EBMというと「=エビデンス(医学論文等の科学的根拠)」と誤解してしまったり、エビデンス偏重で温かみがないと感じる方もいるかもしれません。じつは、EBMはエビデンスを重視しつつも、主に下記の3本柱で構成されていると言われています。
◆EBMの3本柱
臨床研究による最新の動向(データ)
患者様の意向
医療従事者の専門技能
EBMは最新の動向(データ)だけではなく、「患者様の意向」や「医療従事者の専門技能」も重要とされています。もし、データ偏重になってしまうと、当該患者様に対する治療方針を検討することよりも、画一的な治療方針に患者様を当て込むような「森をみて木をみず」と言った状況に陥りがちです。
臨床においては、グループ単位を対象とする研究とは違い、患者一個人を主に取り扱う趣があります。医療従事者は、患者様の治療動機・嗜好等のバックグラウンド(背景)も把握したうえで、臨床に取り組む必要があると言われています。そして、患者様の意向だけでは実現性のある治療方針策定が困難なため、医療従事者の経験等(専門技能)を加味し、最適解(ベターな方法)を模索・検討・選択していくことで初めてEBMが実践できるわけです。
こうみると、必ずしも「EBMはエビデンス偏重でない」ことが判ると思います。よくよく考えてみると、実は血が通った感じがあり、想像よりも「患者中心」と言えます。
鍼治療を検討する上で、他療法と優劣を比較されてしかるべきですが、実は、エビデンスやガイドライン上のグレード(優先度)は暫定的なもので、時代とともに変遷が見られます。
例えば、ドイツにおいて、鍼治療は「公共医療(保険適用)」として認められていますが、慢性腰痛に対する①真の鍼治療、②非経穴部位浅刺の偽鍼、③薬物療法・理学療法・運動療法の併用の通常治療を比較した大規模研究(340施設、1162名)が事前に実施されました。結果、改善率は鍼の2グループでは①47.6%、②44.2%、通常治療グループでは③27.4%となり、鍼治療が効果的であることかがわかっています。もちろん、「真の鍼治療≒偽鍼なのだから鍼治療は効果がないのでは?」といった批判もありましたが、現在は「偽鍼であっても効果発現を促す可能性がある」との見方が一般的です。
また、末梢性顔面神経麻痺を例に挙げると、日本のガイドラインにおいて鍼治療のグレードが上がったわけですが、こちらも鍼治療の本質に大きな変更があったわけではなく、時代の変遷とともに再評価されたに過ぎません。
日本の医療制度上、鍼治療を検討される方のほとんどは「医療機関での標準治療を経ている(医療ファースト)」はずです。こういった方に対し、必ずしも「現代医療(西洋医学)に比べて、鍼治療は優先度や優位性が低いため、検討することは止めましょう。」とはならないと考えています。というのも、鍼治療検討の主な動機は、「次の一手としての鍼治療(相補代替医療)」であったり、「相乗効果を期待しての鍼治療(併療)」のはずです。
治療戦略の構造からみて、治療方針を段階的・階段的・多面的に検討することに不自然さはありません。現に、「投薬治療をするから運動療法は止めよう。(またその逆もしかり)」とはならないわけです。同様に、他療法と併療が可能であれば、併せて鍼治療を取り入れることに問題はありません。また、鍼治療の実施にあたっては、鍼治療の枠内で方法を取捨選択すべきだと言えます。
そのほか、当院では、医療機関未受診の場合、積極的に医療機関受診を促し、グレードの高い治療方法(末梢性顔面神経麻痺であればステロイド治療や抗ウィルス治療)を優先するように促しています。また、鍼治療自体が不適当と考えられる症例、医学的に実現性が著しく低い場合、鍼治療は行いません。(例:がんを治すはり等)
EBMの本質は「患者利益の追求である」と考えています。