慰安や医療としての鍼灸。ミスマッチングを起こさないためにも線引きが重要。

鍼灸は「慰安」?それとも「医療」?

鍼灸は「慰安」なのか?または「(広義の意味で)医療」」なのか?よく議論されがちですが、実はどちらも「間違いではない」と思います。施術所のスタイルや受け手側(患者さんまたは顧客)の要求・要望によって「慰安」に傾いたり、「医療」に傾いたりするはずです。


同様に、鍼は「痛い」か「痛くない」かで議論されますが、これも「慰安」か「医療」かによっても捉え方は違ってくるはずです。「慰安」に傾けば、「痛くなく、心地よさのみを追求した鍼」の方がよいはずですし、「医療」に傾けば、「時によっては痛い鍼(痛くない鍼だけでは対応しきれない)」をする場合もあるはずです。そのため、「鍼は痛いか?痛くないか?」を断定することは難しいといえます。


※鍼灸は狭義では「医療類似行為」として、医科の「医療行為(狭義での医療)」区別するために「(狭義の)医療」に含まれていません。本稿では「(広義での)医療」という言葉を便宜上使用しています。


避けるべきはミスマッチング

ミスマッチングを防ぐためにも、必要なのは「今の自分に必要な鍼灸」は「慰安」なのか「医療」なのかと言ったことを、「施術者」も「受ける側」も常に考えておく必要があります。「慰安」が必要な方へのミスマッチングは起きづらいですが、問題は「医療」が必要な方へのミスマッチングです。


一番多いミスマッチングのパターン:

① 受け手は「医療」として症状改善を希望しているが、施術者は「慰安」としての鍼灸を提供してしまう。

② 受け手は「医療」として症状改善を希望しているが、「医療」としての鍼灸は受けたくない。

③ ②の状況から、①の状況が発生してしまう。


①は、施術者側が、うまく線引きが出来ておらず、「症状改善」を目指すことよりも、「心地よさ(リラクゼーション)」だけの鍼灸を提供してしまうような場合です。確かに、「心地よい」方が最初は満足度が高くなります。しかし、結果として「何にもならなかった」で終わってしまった場合は、受け手の利益とならず、本末転倒です。


②は、受け手側が、うまく線引きが出来ておらず、「症状改善」を目指したい気持ちはあっても、施術内容よりも「心地よさ(痛くない)」を要求してしまうような場合です。たしかに、初めて鍼を受ける際には「痛くないように、、、怖くないように、、、」という気持ちが優先されてしまうはずです。しかし、こういった状況で、施術者側が安易に「慰安」にフルシフトチェンジしてしまう(③)と、今後「医療」としての鍼を提供することを拒まれてしまいます。この「慰安への安易なフルシフトチェンジ」による悪循環は抜け出しづらく、また受け手の利益とならないため、避けるべきです。


刺激方法と刺激量の重要性

天津中医薬大学第一付属病院の石学勉強教授が「针刺手法的定量学(鍼手法の定量学)」を提唱し、研究を行いました。同教授の開発した脳卒中に対する特殊鍼法「醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)」は高い有効率から世界的にも有名です。この鍼処方は刺激方法や刺激量も定められており、決められたとおりの施術をする必要があります。


人中(鼻の下)であれば「涙がこぼれるか、眼球が潤うまで」、委中(膝裏)であれば「足が3度跳ね上がるまで」といったように、各使用経穴(ツボ)には刺激方法や刺激量が決められています。脳卒中に対し同法を応用する場合、勝手に刺激量を変えて「涙がでない程度の刺激」や「足に動きがない程度の刺激」を行ってしまっては、本来の「醒脳開竅法」とは言えず、「研究と同じような結果が期待できるもの」ではなくなってしまいます。


当然ですが、正しい「醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)」は弱刺激ではありません。むしろ「痛いもの」です。しかし、受け手の理解と協力を得ながら、時には、「痛い、、、」と言われながらも鍼施術をすることが「症状改善」を目指す上で重要なのです(そうせざるを得ない)。


さいごに

「慰安」であれば、そこまで慎重になる必要性はありませんが、「医療」としての鍼灸を求める場合は、慎重に施術者(施術所)を選ぶべきです。


鍼灸師全員が、鍼を受けることが好きとは限りません。中には、鍼灸師自身の「痛いものは嫌だ」といった体験(思い)を重ねてしまい「低刺激の押し売り(何が何でも低刺激・無痛で)」をしてしまう鍼灸師もいるようです。傍から見ると「(刺激が弱いため)受け手のためになっている」ように見えますが、刺激方法や刺激量が適切でなければ、不利益を生む可能性があります。「自分が鍼を受けること」と「相手に鍼をすること」は同じではありません。


一鍼灸師としては、「心地よさ」だけ、例えば、鍼先を皮膚上にチョコンと一箇所当てて擦るだけで何でもよくなるような方法があれば、それだけを提供したいという思いは常にあります。しかし、現実はそんなに甘くなく、そんな万能な方法はみつかりそうもありません。


「医療」としての鍼施術が必要な方には、「慰安(心地よさ)」だけではなく「いかにして症状を改善するか?」を念頭においた施術を心がけています。もちろん低刺激でよい体質の方には、低刺激での施術をおこなっています。


鍼に興味のある方はぜひご相談下さい。

最新記事

すべて表示

平素は当院をご利用いただきありがとうございます。 夏季休暇を下記のとおり頂いております。 サイト内告知が遅くなり申し訳ございません。 夏季休暇中は、電話は繋がりませんが、メールは対応可能です。 何かありましたらメールにてご連絡下さい。 夏季休暇: 令和4年8月11日~18日

鍼をすると、自律神経の副交感神経が優位になり「リラックス状態」になると言われています。そのため、鍼を刺したままベッドで安静にしている「置鍼・留鍼(ちしん・りゅうしん)」の最中には眠ってしまう方が多い印象です。よくカーテンの向こうからイビキが聞こえてきます。 「鍼を刺したままで痛くはないのか?」という質問を受けることがありますが、鍼が刺さった後は「するどい痛み」が持続することはありません。少しずーん

私は「絶対に治します。」「絶対に治ります。」「すぐ治ります。」とは明言していません。中には、「よくない鍼灸師(施術者)だ」と感じる方もいるかもしれません。 よく「同じ病気で悩んでいる患者さんは来られますか?」という質問をされます。病気だけで一括りにすると「はい。来ます。」と答えが出やすいですが、患者さんが本当に聞きたい答えは「来るか?来ないか?」といった簡単なものではなく、「その方はどういった経過