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  • 執筆者の写真三焦はり院

末梢性顔面神経麻痺と後遺症に対する考え方

末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺・ラムゼイハント症候群など)を発症した後、軽症例のように1~2か月で速やかに回復すればよいですが、ENog検査(誘発筋電図検査)で40%を下回るような場合(中等症以上)はより多くの期間を回復に費やします。顔の麻痺と言うと、「顔の運動神経が上手く機能しないため、表情筋が動かないだけ」と捉えられがちですが、時間の経過と共に様々な原因によって運動麻痺が複雑化していきます。一般的には、下記の原因が考えられます。


ENog検査(誘発筋電図検査):

・患側の生きている神経がどの程度か健側と比較する方法。

・発症から10日~14日の評価スコアの信頼性が最も高い。

・客観的な現状把握と予後判定に用いられる。


運動麻痺の原因:

①顔面神経の損傷によるもの(電気信号が届かない)

②表情筋の拘縮・萎縮によるもの(筋肉のこわばり、ひきつり)

③病的共同運動(口を動かすと目が閉じる等、ひきつり、痙攣)

④動かし方を忘れる(学習性不使用)


発症初期は①神経損傷による運動麻痺のみですが、何もケアをしなければ②表情筋の拘縮・萎縮が生じてきます。そのため、マッサージを毎日定期的行うことで予防をしていきます。このセルフケアを怠ると②表情筋の拘縮・萎縮が起こりやすくなり、二次性の運動麻痺(神経が回復しても筋肉が動かない)を生じさせる原因となります。諸説ありますが、当院では1日10回程度(1~2時間に1回)、1回5分程度をすすめています。


回復期(主に初期)では「顔を動かさないように」という話が出てきますが、それは「顔面神経を過度に刺激(神経の発火)すると、回復の過程で共同運動(神経同士の混線)が生じやくなるため、顔の筋肉を自分で無理に動かすのはやめましょう」という意味です。顔面神経自体は非常に再生力が強い神経と言われています。そのため、神経発火によって神経の枝が過度に伸びやすく、これが混線を招くと言われています


顔面神経への刺激(神経の発火)は、主に「自動運動によるもの(脳からの信号による神経の発火)」や「通電(電気刺激による神経の発火)」を指します。他動的に指先で表情筋を揉むようなマッサージ(他動運動)では過度な神経の発火が生じる可能性は低いと考えられます。ガイドラインにおいても、早期から表情筋へのマッサージが推奨されています。


運動の種類:

・自動運動:自分の意志で自ら筋肉を収縮させて行う運動≒神経の発火による

・他動運動:他力で動かしてもらう運動≒神経の発火によらない


表情筋が動き出してくると、ウーイープー体操(目は開けたまま口だけを動かす)などのミラーバイオフィードバック法(通称MBF法、鏡を見ながら正しい動作を行う方法)を行います。とくに③共同運動の出現が想定される場合(ENog検査40%を下回る)は、慎重に行います。口(または目)だけを一つ一つ独立して動かすことによって、神経の枝は正しい方向に延びていき、神経同士(目を閉じる神経と口を動かす神経)の混線を予防することが可能と言われています。このウーイープー体操の動作を正しく行わない場合は、共同運動の発症・悪化を誘発する原因となるため注意が必要です。その他、日常においても、食事中は目を開けたまま咀嚼をする等の注意も必要です。


ENog検査と病的共同運動の関係:

・40%を超える:病的共同運動発症の可能性はほとんどみられない

・20%~40%:病的共同運動の発症リスクが高い

・20%を下回る:病的共同運動ははほぼ全例でみられる


ENog検査とミラーバイオフィードバック法(MBF)の重要度:

・40%を下回る:MBFが必要

・未計測例:予後良好の兆候がない場合はMBFが望ましい


ミラーフィードバック法を実施する際には「鏡をみながら」「ゆっくり」「正確に」「左右対称性を保って」「力まずに」「他の筋肉を動員しないように」「ていねいに行う」ことが求められます。よくある間違ったセルフケアの事例としては、「鏡をみないで」「素早く」「左右対称性を無視して(主に健側にゆがむ)」「力強く」「他の筋肉も動員しながら」「回数をこなすように行う」といったことが起こりがちです。


イーの動作(口を横に開く)を例に挙げると、無意識に「力んで目が閉じてしまう」「歯を食いしばって首の筋肉で横方向に引っ張る」と言ったことがよく起こりがちです。このまま放置していくと、口を開くと目が閉じてしまったり、首筋が痙攣するということが起こってきます。


ミラーフィードバックの本来の目的は、「筋力強化ではなく、動きの再学習」です。「表情筋を強くするためではなく、いかに正しい動作を反復して学習させるか」がキーポイントとなります。いわゆるイメトレです。間違った動作を行った場合、頑張れば頑張るだけ共同運動が起こりやすくなる悪循環に陥ってしまうわけです。中等度以上の場合は、一定の回復期間がかかることが想定されます。表情筋に力を入れて筋力強化を行ったとしても、すぐに回復するわけではありません。焦る気持ちは一旦抑えて、「いかに正しく回復を促すか」に気持ちを切り替えていくことが大切です。


共同運動が起こってしまっても、適切な表情筋の運動(MBF法など)を反復して行えば、学習によって混線した神経回路を脳が上手に使い分けるようになると言われています。そのため、口を動かすと目の周りが痙攣すると言った症状も軽減または消失することがあります。ただし、あまりに共同運動が高度に完成されてしまっている状態(口を動かすと、完全または極端に目が閉じる等)では、表情筋の運動(MBF)が十分に行えないことが起こり得ます。こうなってくると、表情筋の運動自体が行えず、ボトックス注射等の方法で一時的に共同運動を止めることを考えなければなりません。また、罹患してから長い時間を経た陳旧例では、共同運動と相まって眼輪筋の拘縮・萎縮も併発している可能性が高く、より回復を困難にさせます。


顔面神経麻痺とは言っても、顔面神経の麻痺だけではなく、経時的に様々な問題が複合的に生じ、回復を阻害する要因となるわけです。顔面神経麻痺ケアのプロセスは非常に単純ですが、いかに正しく、根気よく行うかがポイントとなります。もちろん、完全に回復するか、後遺症が出ないかは個人差を考慮しなければいけません。ただし、その中でもベストを尽くすことによって本来可能な回復を最大限に促し、想定される後遺症を最低限まで抑えるといった考えが必要不可欠です。


まとめ

①大きな動きはしない。

②表情筋を動かすときは部位に応じた独立した動きを行う。

③マッサージなどのセルフケアを怠らない。

④ミラーバイオフィードバック法は焦らず正確に行う。

⑤後遺症は複雑化しやすいため予防が大切。


当院では、顔への鍼を行いながら、併せて鏡を見ながら行うセルフケアやマッサージの指導をしています。患者様本人では気付きづらいポイントも一緒に把握しながら根気よくケアを続けられるようにサポートをしています。当院では、週2回以上の通院をおすすめしています。理由なく「一週間に1回」、「隔週に1回」と自己判断で通院間隔を延ばす方法は、原則おすすめしていません。


以前は、通電療法が回復を促進するため、常用されていたようですが、現行のガイドラインでは禁忌とされています。異なるタイミングによって眼輪筋と口輪筋に鍼通電を行う方法では、共同運動を誘発する可能性は低いという報告もありますが、ガイドラインに準じて当院では鍼通電を行いません。


昨今のガイドラインでは鍼治療の推奨度も上がってきていますが、「鍼治療を薦めない」、「鍼治療は共同運動を誘発する」と言う意見がまだまだあるのが現状です。実際に鍼治療を受けたことがある方はわかるかと思いますが、鍼治療と言っても内容は様々です。いわゆる禁忌である鍼通電も鍼治療の一つと言えます。もちろん、鍼通電を行えば、共同運動を誘発する原因と成り得るわけですが、「鍼を刺すこと自体が共同運動を誘発する主たる原因になるか?」と言えば、可能性はかぎりなく低いと考えられます。


鍼治療を考慮される方の多くは中等症以上であり、なんらかのケアが必要な場合がほとんどです。急性期のステロイドと抗ウィルス薬投与を除いて、一般的にはビタミンB12の内服のみという場合がほとんどです。「医療機関における一ヶ月~数か月に一度の経過観察では、共同運動の兆候を見逃すことは十分に考え得る」、「リハビリも最低一年は継続する方が望ましい」という意見もあります。


神経損傷の場合は、早期からの治療介入をした方が治療成績が良いと言われています。また、経時的に治療成績は下がる傾向にあるため、「あとから何とかしよう」と考えるよりも「まずはやれることはやってみよう」といった考えが大切です。もし、少しでも症状に悩んでいる場合は、ぜひご相談ください。



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