末梢性顔面神経麻痺の多くはベル麻痺で、次いでラムゼイハント症候群となります。
よく、「末梢性顔面神経麻痺のほとんどは自然治癒するから放置していても大丈夫。」と言われることがあります。なぜなら、ベル麻痺における自然治癒率は70%程度(治療では90%程度)と言われており、ラムゼイハント症候群においては30%程度(治療では60%程度)と言われているからです[1]。
自然治癒または治療による治癒率ですが、これは全体における統計です。言い換えますと、「もしかかってしまったら、どの程度の方が治癒する。」と言う意味になります。所謂、かかっていない方向けのメッセージになります。逆に言うと、かかってしまった後には「ベル麻痺であれば、ほとんどの場合で治癒する可能性が高い。」とは言えないわけです。何故なら、かかってしまった時点で「予後(今後どうなる可能性が高いか)」の振り分けが行われているからです。
予後の判定は、先ほどの統計ではなく、ENoG検査(発症から10~14日後に実施される)で行われます。非麻痺側と麻痺側を比較し、どの程度神経が生きているかをみる検査です。数値はパーセントで算出されて、低値であればより重症ということがわかります。
先程の全体の治癒率とあわせて考えていくと、、、例えば、ENoG検査数値が10%を超えない重症例において、統計上の「放置していても自然治癒するだろう」と当てはめて考えてよいのか?というと、当然ながら「不適切」であり、自然治癒する可能性は極めて低いと言えるのではないでしょうか。
また、ENoG検査の数値が40%を超えない場合は後遺症のリスクがあり、10%を超えない場合は後遺症は必発と言われています。そのため、ミラーバイオフィードバック法等の後遺症予防を含め、慎重にケアを行う必要があるわけです。
「数字のマジック」による偏った見方をしてしまうと、どうしても楽観的になりがちです。行うべきケアを行わないと、本来期待できる治療成績をあげられないばかりか、後遺症が思ったよりも出てしまう可能性が高くなります。