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  • 執筆者の写真三焦はり院

末梢性顔面神経麻痺の初期対応時に確認していること

更新日:3月14日

1.はじめに

末梢性顔面神経麻痺の初期対応時に、いくつかのポイントに注意しながら確認を行っています。本稿では、新鮮例(発症すぐ)について触れていきます。


◆初期対応時に確認しているポイント

  1. 医療機関を受診しているか

  2. ベル麻痺かラムゼイハント症候群か

  3. 軽症か中等症以上か

  4. 部分麻痺か完全麻痺か

  5. セルフケアの有無


2.ポイントの解説

1)医療機関を受診しているか

顔面神経麻痺を発症したら、早急に医療機関(耳鼻科)を受診することが大切です。医療機関未受診は稀ですが、稀にお電話で問い合わせがくることがあります。まずは医療機関で鑑別診断をしてもらうこと、そして標準治療(最も推奨される治療)を受けることが大切です。


実は、顔面神経麻痺は一症状に過ぎません。脳卒中(脳梗塞、脳出血など)等でも発症する可能性があります。また、帯状疱疹ウイルスは顔面神経麻痺を生じる原因となりますが、眼に近い場合は視力低下や失明のリスクとなりえます。


末梢性顔面神経麻痺の場合は、主に頭蓋内の顔面神経が通るトンネル(耳の後ろ)内で神経浮腫が生じている状態です。状態にあわせて、「神経自体の炎症を抑えること(ステロイド投与)」、「トンネル内圧を軽減すること(減荷術)」、「炎症を生じさせているウィルスをたたくこと(抗ウィルス薬投与)」が重要となります。


適切な治療を受けることで神経損傷を食い止めることが出来るため、医療機関受診をおすすめしています。


2)ベル麻痺かラムゼイハント症候群か

末梢税顔面神経麻痺で一番多い症例は、「ベル麻痺」と言われています。比較的予後は良好なケースが多く80%程度が治癒すると言われています。次に多い「ラムゼイハント症候群」の場合は60%程度しか治癒せず、難治と言われています。


ラムゼイハント症候群の場合は、ENoG検査の数値が同等でも、比較的治癒しづらい傾向にあると言われています。また、ベル麻痺と診断をされても、不全型ラムゼイハント症候群(特徴的な水疱形成がない)の場合もあり、治療開始時点では判断がつかないケースもあるとされているため、経過が思わしくない場合は注意が必要です。


患者さんによっては、「病院では顔面神経麻痺としか言われていない」といったケースもあり、難聴、耳鳴り、めまいなどの症状が併存する場合は、より慎重に経過を追うようにしています。


3)軽症か中等症以上か

一般的に、重症度の判定には、「柳原法」と「ENoG検査(神経伝導検査)」を用います。柳原法は、検者が表情筋の動きを主観的に判断するため、スコアにバラつきが生じやすく、「予後」や「神経がどの程度損傷を受けているのか」を正確に知ることが出来ません。そのため、活きている神経の割合を機械で調べる「ENoG検査」の方が正確性が高く、予後判定においても有用です。


とくにENoG検査数値が40%を超える場合は、「神経の機能不全(神経断裂を伴わない)」の可能性が高いと言われており、後遺症のリスクは低いと言わています。逆に、40%を下回る場合は、「神経断裂」の可能性があり、回復過程において後遺症のリスクが高まります。


当院でも柳原法を実施していますが、目的は状態把握(評価)にとどまります。そのため、ENoG検査を医療機関で受けて頂くようにお願いをしています。


極端にENoG検査数値が高い場合、鍼治療を強く希望する方を除いて、鍼治療は実施しないこともあります。また、ENoG検査を実施していない症例では、後遺症リスクがどの程度か不明なため、明らかな軽症例を除いて、後遺症予防にミラーバイオフィードバック法(MBF法、鏡を見ながら顔を動かす方法)を追加で実施しています。


4)部分麻痺か完全麻痺か

柳原法は検者の客観的な見方によって点数に変動がみられるわけですが、「果たして表情筋が動くのか動かないのか?」が臨床的に重要な兆候となるため、単にスコアをとったり、全体のスコアをお伝えするだけではなく、実際にどういった意味があるのかを患者さんと一緒に確認をしています。


実は、同じ麻痺でも、「完全麻痺(ピクリともしない)」と「部分麻痺(不全麻痺、筋収縮以上がみとめられる)」では全く意味が異なります。「完全麻痺」の場合は、まったく動かないわけですから、今後動くかどうかはわかりません。逆に「部分麻痺」であれば、筋収縮以上がみられるため、神経機能はある程度維持されていると考えます。そのため、今後どこまで動くようになるかが課題となるわけです。


発症後2週間の段階で、すべての動作が2点以上(部分麻痺、下記参照)、とくに筋収縮だけではなく表情をある程度作れるようであれば、予後はだいぶ良い印象です。柳原法は、十項目×2点のため20点以上となり、いわゆる軽症と考えることが出来ます。ただし、片目つぶりは元々できない方もいるため、その場合はスコアが少し下がる傾向にあります(治癒の評価が40点満点中36点以上はこのため)。


あくまでスコアはスコアとし、臨床的意義を考えることでより深い状況理解をするように努めています。


◆柳原法の点数

  • 0:完全麻痺(全くうごかない)

  • 2:部分麻痺(筋収縮以上)

  • 4:左右差がないか、ほぼない


5)セルフケアの有無

実は、動かない筋肉(動かせない筋肉)は、拘縮(いわゆる固まる)を起こしやすい状態となっています。拘縮予防に対し、初期からのセルフマッサージが有効とされているため、ENoG検査の有無に関わらず、当院ではセルフマッサージを推奨しています。初診時には、一緒に鏡をみながらセルフマッサージを行っています。


一旦、拘縮を起こすと二次的な運動麻痺が生じ、神経機能が回復しても筋肉を動かすことが出来なくなってしまいます。拘縮が生じると、筋萎縮が生じる原因となり、更なる運動麻痺を生んでしまいます。そのため、一日10回程度のセルフマッサージをするようにお願いしています。とくに中等症以上では、数か月は動きがでないといったこともあるため、拘縮対策が重要となります。


セルフケアの話をすると、「下手に動かすと後遺症が生じるとネットに書いてある」と言ったご質問が時々ありますが、、、実は、「半分正解で、半分不正解」です。


「動かすこと」は主に「自動運動(自分で動かす)」と「他動運動(誰かに動かしてもらう)」の2種類に分けられます。後遺症の原因となるのは前者の「自動運動」です。自動運動を行うためには、脳からの「動け!」という信号を神経を介して目的筋に伝える必要があります。その際に、神経の活動は活発になりますが、活発になりすぎると神経の枝が過剰に伸びてしまい、神経同士の混線が生じやすくなります。この「過剰な神経の活動」が病的共同運動(後遺症、口を動かすと目が閉じるなど)の原因となるわけです。


そのため、「自動運動(とくに粗大な運動)」はなるべく避けるべきですが、「他動運動」では神経の活動は起きないため、後遺症誘発の要因にはならないと言われています。そのため、セルフマッサージによる「他動運動」は一般的に大きな問題とはなりません。


また、いわゆる「通電療法(鍼通電、経皮的電気刺激、パルス療法など)」は電気刺激による「自動運動(他動運動ともいえるが、発現機序は自動運動と同じ)」を引き起こすため、「禁忌(してはいけない)」とされています。電気を流す美顔器などの使用も控えましょう。


※上記の理由から、当院では、比較的安全とされている2チャンネルの非同期型通電(口輪筋と眼輪筋を違うタイミングで収縮させる方法)も実施していません。


3.さいごに

ちまたでは、末梢性顔面神経麻痺に対する情報があふれています。通電療法を推奨していたり、顔の筋力トレーニング(いわゆる強く動かせば動くようになるだろう理論)といった後遺症を誘発する方法を推奨している情報もあります。


また、前述のとおり「セルフマッサージ(他動運動)」を極端に危険視したり、なかには過大な宣伝広告(いわゆる「鍼治療一回で治る」といった宣伝文句、症例として著効例や軽症例を載せるなど)も存在します。


末梢性顔面神経麻痺の治療戦略は非常にシンプルです。魔法のような治療方法もありません。もちろん、すべての症例で「治癒(柳原法で36点以上基準、中等度以上の病的共同運動なし)」となるわけではありませんが、適切な治療方法を選択し実施・実行することが、今後の治療成績を上げるコツと言えます。


鍼治療は初期から対応可能です。後から受療を検討するよりは、まずは早期からご相談ください。もちろん、患者さんの状況にあわせた対応を心掛けています。

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