末梢性顔面神経麻痺になると、顔全体が動かなくなるため、額の皺が消失し、額がつるつるになったりします。たまにですが、「耳鼻科の先生からは末梢性顔面神経麻痺は治ったと言われたが、片方だけ額の皺が全然ない。」といった相談を受けることがあります。
来院して頂くと、たしかに麻痺側の額の皺がなく、非麻痺側の皺がくっきりはっきりしていると言った具合です。多くの場合は左右の眉毛の位置も違い、麻痺側が低く、非麻痺側が高いことが多いです。
まずは鏡をみながら、眉毛の上に挙げる動作(額に皺をだしてもらう動作)をして頂きます。顔面神経麻痺が残る場合、もちろんこの動作は出来ないわけですが、左右差なく眉毛を挙げることが出来て、挙上時には左右差なく皺が出るわけです。
左右の皺が同程度出現し、眉毛の高さも同じと言うことは、「眉毛を挙げる(または額に皺を寄せる)筋肉は正常に機能している」と言えるわけです。そうなると、「顔面神経麻痺が残存している可能性が高いと評価することは不適切」と言えます。動くものに動かない(麻痺)と評価することは出来ないわけです。点数で言えば4点満点中4点(フルスコア)となります。
このような場合「もしかしたら何らかの理由で非麻痺側の眉毛を常に挙げているのではないか?」と考えるわけです。じつは、一般的に眼瞼下垂を併発している場合に、この現象が起きやすいと言われています。「皺がないのが問題ではなく、出過ぎていることが問題」と言えます。ほとんどの場合は中高年以降の方で、若年者ではまず起こりません。
仮に眼瞼下垂だとすると、表情筋のトレーニングを行ったり、額の筋肉を柔らかくしたりしたすると改善しそうな印象を持ちがちですが、額を緩めれば視野も狭まるため、瞼を何とかしないと、元の状態に戻ってしまう可能性が高くなります。逆に、瞼が自然に開けるような状態になれば、額の皺は元通りになる可能性が高まります。
当院では、現在の状態をお伝えするとともに、「強い希望があれば額の筋疲労緩和に対して鍼施術を行うことは可能ですが、瞼に問題がある可能性もあるため、まずは医療機関(一般的に形成外科)に相談してください。」とお伝えするようにしています。
なお、当院は施術所のため、「眼瞼下垂かどうかの診断行為」は行っていません。また眼瞼下垂の場合、一般的に手術以外では改善しないと言われています。末梢性顔面神経麻痺に対して鍼は有効と考えていますが、不必要な加療は患者負担を増加させるだけですので、当院では慎重に対応しています。
その他、動眼神経麻痺(第III脳神経)だと瞼が下がることがありますが、顔面神経麻痺(第Ⅶ脳神経)では瞼が下がる可能性は低いと考えます。また、額の皺に影響を受けない顔面神経麻痺(中枢性顔面神経麻痺)が生じている場合は、脳梗塞などの可能性があるため注意が必要です。