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  • 執筆者の写真三焦はり院

末梢性顔面神経麻痺の重症度と予後予測

当院では、顔面神経麻痺に対する鍼施術を標榜しています。来院される方の多くは末梢性顔面神経麻痺で発症直後から後遺症期の方まで幅広く受入れ対応をしています。


末梢性顔面神経麻痺には疾患による予後予測と重症度判定が大切となります。ほとんどの場合はベル麻痺(単純ヘルペスウイルスtype 1 (HSV-1) )かラムゼイハント症候群(水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV) )(以下「ハント症候群」)で、どちらもウィルス感染が原因となりますが、前者では自然治癒率が高く、後者では自然治癒率は低いことが特徴となります。問診時には、どちらの既往かお尋ねするところから始めます。もし答えがハント症候群の場合は治癒率が比較的低いこと、予後が不良となることが多い印象です。


次に注目するのは、重症度となります。重症度は予後予測に必要となるため、「電気生理学検査は受けましたか?」または「Enog検査(Electroneurography)は受けましたか?」と言った質問をしています。検査を受けていればよいのですが、「ドクターからは見たところ○○(軽度~重症)と言われている。」または「口をイーとやってくださいと言ったテストは受けました(柳原法)。」と言った場合は注意が必要となります。というのも、「見た目」であったり「顔を実際に動かせて点数をつける評価」はすべて検査をする人によってバラつき(誤差)が生まれます。人によっては厳しい評価をする場合もあれば、比較的甘い評価をする場合もあるからです。また、評価方法である①ほぼ正常②動く③まったく動かないと幅があることも誤差の原因と言えます。


Enog検査のようにはっきりと客観的に評価できたものが最も信頼性が高く、比較的誤差が少ないと言われています。電気生理学的検査(Enog検査)を受けていないようであれば、発症から10~14日に検査を受けるように促します。ただし、これ以上の期間を過ぎてしまった場合は、残念ながら精度が下がるために柳原法に頼るほかありません。


よく「なんで今からEnog検査ではダメなのですか?」という質問を頂きますが、大きな理由は、最も神経損傷が完成した状態を確認しなければいけないからです。10日程で神経損傷が完成し、14日を超えてくると自然治癒が始まるため、正確な評価は行えません。時期が早すぎたりや少し経過してしまうと本当の状態よりも良い点数が出てしまうからです。重症度判定(予後判定も含めて)には必ず電気生理学的検査が必要不可欠と言えます。


ENoG検査のスコアは障害されていない神経の割合を示すもので、〇〇%として評価します。ENoG値が40%未満では神経断裂 が加わっている可能性が高いことから後遺症発症に注意が必要です。一般的に予後判定は以下のとおりとされています。


予後判定:

① ENoG 値が40%以上あれば,麻痺は後遺症なく1カ月以内に治癒する

② 20%以上40%未満であれば,2カ月以内に治癒するが,わずかに後遺症が生ずる可能性がある

③ 10%以上20%未満であれば,4カ月以 内に治癒するが,後遺症の可能性が高まる

④ 10%未満で あれば,半数は治癒せず,治癒しても6カ月以上要し, 後遺症が高率に生ずる

⑤ 0%であれば治癒は望めない

参考文献:

[1]小池吉郎, 戸島 均 : 顔面神経麻 痺の検査. JOHNS 1991 ; 7 : 1547―1558.

[2]稲村博雄 : 病的共同運動の電気生理学的検査. Facial N Res Jpn 1998 ; 18 : 11―13.

[3]萩森伸一 : 顔面神経麻痺に対する電気生理学的検査. 日本耳鼻咽喉科学会会報 2017 ; 120(10) : 1266-1267,


正確な予後判定が行われていない場合は、気を抜かずにしっかりとケアを行う必要があります。①発症初期から高頻度のマッサージを行い表情筋を固くさせない②粗大な顔の運動を避ける③後遺症予防のウーイープー体操などを行う④口と瞼が連動するような動きは行わない(例:会話時や咀嚼時は目を開けたままにする)ことが大切です。もちろん、鍼も顔面神経麻痺に対して有効ですので、取り入れるようであればしっかり週2回は継続加療することをおすすめします。


発症からの経過時間と回復の程度は反比例することがわかっているため、後からしっかりやっておけばよかったとならないように気を付けましょう。また、一旦後遺症であるワニの涙(食事中に涙が止まらない)、口と連動して目が閉じるなどの病的共同運動(神経の混線による連動した異常な動き)が生じるとほとんど回復は見込めません。その他、表情筋の拘縮・痙縮が起き、痛みやひきつりの原因となります。たかが顔面神経麻痺とは考えずに、しっかりケアをするようにしましょう。

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