まずは3か月程度通院してみましょう
はりをして一回で良くなったり、はりをしてグングン右肩上がりで体調が良くなったり痛みが取れたりということを想像しがちです。たしかに中にはこういった方もいらっしゃいますが、効果がある場合でもすべての人がこういった経過を辿るわけではありません。そのため、数日や一週間単位での変化だけで治療成績を判断する必要はありません。
体にはバイオリズムがあり、機械のように常に調子は一定というわけではありません。調子に山があったり谷があったりして当然なわけです。また、気候の変動など外的要因によっても体調は左右されるため、「雨が降りそうな時は痛みがました。」「夜冷えると痛みが増した。」といったことも起きてきます。
治療成績は、為替レートのように上がったり下がったりを繰り返します。直近1日だけ、1週間だけのチャートをみてもなかなか全体を把握することは難しいはずです。同じように、もっと長期的な目線で経過を観察する必要があります。長期的にみると上がったり下がったりを繰り返しながら成績が上昇していくことは十分に考えられます。そのため、3か月程度は根気よく通院したほうがよいと言えます。
高齢者の場合や進行性疾病ではキュアよりもケア
ただし、高齢者や進行性の疾病を患っている場合は、より長い目で経過を観察したり、場合によっては進行緩徐やADL改善、QOL改善を目指すことも重要となります。
理由としては、加齢に伴う症状は緩解したとしてもまた再発する可能性が高く、進行性の疾病は完治することはありません。加齢とともに体は弱くなり、進行性の疾病では徐々に症状が進んでいくことは想像に難しくありません。そのため、キュア(治癒)より長期的なケアを念頭においた考え方が必要です。「これ以上悪くさせない。」という考え方です。
例えば、慢性腰痛の原因になりやすい変形性腰椎症(すべり症、脊柱管狭窄症など、腰椎圧迫骨折後)は加齢に伴う筋力低下やオーバーユーズ(長年の使いすぎ)、骨粗しょう症などによって引き起こされます。変形した骨は自然に元に戻ることはなく、一般的には悪化させないことや痛みのコントロールが目的となります。少しよくなったからと言って放置するともっと悪くなるということも多々あるわけです。
痛みのコントロールのメリット
痛みのコントロールのメリットはQOL(生活の質)の改善とADL(日常生活動作)の改善です。そして、関節拘縮や筋麻痺などの二次的な症状を予防することです。「痛みで正常な動きができない」と徐々に関節拘縮(固まる)によって関節可動域は低下していき、使わない筋肉の筋力は低下していきます。とくに高齢者では顕著です。
骨折や脱臼を例に挙げると、高齢者では固定期間が短く設定されています。関節拘縮や筋力低下による運動不利が生じるため、早期から固定止めてリハビリを開始します。なるべく「動かない・動かせない」といった状況を作らないようにし、拘縮を予防することによって「歩けない・動けない」を起こさないようにしていきます。
もちろん、拘縮は急におこる場合もあれば、徐々に進行していく場合もあります。どちらにしても「なるべく動かす」「なるべく運動によって筋力を向上させる」「なるべくバランス能力を培う」ことが重要です。
運動習慣や通院コンプライアンスは患者さんのスキル
日頃からの良い運動習慣や食事のコントロール、また通院コンプライアンスの状況は健康維持や治療成績につながります。鍼灸に限っては、通院コンプライアンスが守れていない場合は、ケアすること自体が出来ません。また、腰痛や膝関節症は体重とも関係があるため、肥満傾向の方では治療成績が思わしくない場合もあります。こういった、セルフコントロールも含めて治療の一環と言えます。
最後に
まずは一定期間通院することは症状改善のために必要な過程です。そして、個々の状況にあわせてケアをしていくことが重要となります。また、セルフコントロールも治療における重要な要素です。いまいち治療成績がよくないと感じたときは、一度基本的なことを見直してみましょう。もしかしたら、遠回りをしている場合もあるかもしれません。