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物忘れ(認知症)への鍼灸は早期からの方がよい理由。

よく素人考えで、「物忘れ(一般的には認知症)の症状が進んでから鍼でも何でもやればよい」と言われる方がいます。じつは最もらしく聞こえる話ですが、現実はそんなに甘くありません。「早期発見」「早期治療」と提唱されているのには多くの理由があるのです。


ではなぜ、「早期発見」「早期治療」が必要なのでしょうか?鍼灸師の立場から述べていきたいと思います。


1.まずは認知症発症を予防する

認知症の「早期発見」「早期治療開始」は軽度認知障害(MCI)の段階からアルツハイマーなどの認知症への移行を阻止する、または、発病や経過を遅らせるなどの意味合いがあります。


MCIと認知症の関係はよく「崖」に例えられます。MCIの段階では健常レベルまで戻ることが可能です。しかし、一旦認知症を発症すると、治るということはありません。「崖」から落ちていくと、残念ながら上には登れないのです。


そのため、鍼灸に限らず、まずは専門の医療機関への早期受診がポイントとなります。


2.あとからでは鍼灸療法を受けてくれない場合が多い。

「物忘れ」改善で鍼灸院に来院されるケースは、周囲の方が説得して連れてこられる場合や、医療機関からの紹介がほとんどです。自ら「物忘れ改善を目的として」鍼を受けようとする認知症患者さんはほとんどいません。病識があればよいですが、自覚していない場合がほとんどです。この「病識のなさ」が早期発見や早期治療開始を遅らせている一因となっています。


誤解されやすいですが、「認知症は忘れやすいというよりも、覚えていられない」性質が強い病気です。そのため、進めば進むだけ、ご自身の症状への自覚はなくなり、介入が困難となるわけです。


3.「施術者は知っている人」であるほうがよい

薬物療法などを試されている方も、鍼を希望する方が増えてきています。


実は、鍼を行う上では、「施術者のことを覚えている」ことが重要となります。人間は危険と関連性の深い「痛い・怖い」といったマイナスの感覚をよく覚えている傾向にあります。それは認知症患者さんでも同じです。


鍼灸で使用される鍼は危ないものではありません。しかし、「痛い・怖い」というイメージを連想される方も多いと思います。健常者でもそういったイメージがあるわけですから、知らない人に刺される鍼と、知っている人に刺される鍼では意味合いが大きく異なってきます。


早期から鍼を受けていると、鍼に対して「頭がすっきりする」などのプラスのイメージが残り、すんなり受けて頂ける場合が多いです。


施術者は、いかに覚えていてもらえるか?そして、忘れていても大丈夫な環境を作れるか?に注力しています。そのため、早期から「知り合い」になることは非常に重要です。


「世間話」を交えたりしながら問診を進めていきます。これも、「この人は危険な人ではない」ということを察知してもらうために行っているものです。


患者さんは私のことはぼんやりと覚えていても、「雰囲気」から「私がどのような人であるか?」といったことを察知します。


4.鍼灸療法は薬物療法との相性がよい

鍼は大きな副作用もなく、漢方や認知症治療薬と併用が可能です。周辺症状(BPSD)の改善に効果的であるという報告もされています。とくに、薬物療法で副作用が強い場合や、あまり症状が抑えられないといった場合は一度試してみることをおすすめします。


BPSD:

興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊 etc...

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