脳卒中には鍼が有名
鍼灸治療と言えば、皆さんはどんなイメージがわきますか?腰痛や肩こりに効くイメージでしょうか?本場中国では脳卒中に対する鍼灸治療法が一番有名です。醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)と言って、天津中医薬大学第一附属病院の石学敏教授によって開発された方法です。1972年に開発されて、いまでも盛んに研究と臨床応用がされています。
醒脳開竅法は、脳機能&運動機能改善作用と脳組織保護作用(受傷後の炎症反応抑制)などがあります。本場では急性期から使用されていて、98%を超える治療成績が報告されています。天津中医薬大学第一附属病院(北院)には鍼灸専門の16階建ての病棟(3棟中1棟)があり、2009年時点で1日2000人以上の外来通院患者数(鍼灸科だけ)をほこります。病棟ベッド数は中国全国鍼灸科全体の40%を占めています。
しかし、日本においては、独自の医療保険制度のなかに鍼灸治療を組み込みづらいこと、また、脳卒中による肢体麻痺は健康保険利用が出来ない事情からか、早期から積極的に鍼灸治療を取り入れている方はほとんどいません。
中には、主治医の外出許可を得ながら、周りのサポートも受けつつ鍼灸院に通いながらリハビリを継続されている方もいますが、ごく少数に過ぎません。
ご家族がご相談に来られることがありますが、自費となるとなかなか二の足を踏んでしまい、一定期間を経過してから「やっぱり鍼でも、、、」となる場合も少なくありません。しかし、残念ながら治療成績は劣る印象です。
神経機能回復は、目安が半年~一年と言われています(もちろん1年を超えても回復する人は回復するが、、、)。この期間にどこまで回復できるかが一番の焦点となります。症状が固定されてしまったあとでは、忍耐が必要であり、回復できなかった場合は大小の後遺症が残る可能性が高くなります。
そのため、早期から回復をめざすことが重要となります。
なぜ早期から回復を目指すべきか
早期から回復を目指す理由はたくさんあります。
1)ゴールデンタイムは軽視できない
破壊された神経は元に戻りませんが、脳は新たな回路を形成して、機能を補おうとします。この活動がもっとも活発な時期(ゴールデンタイム)に回復を行う必要があります。
2)筋量が減れば運動は行えない
神経機能が回復せず運動麻痺が続けば、筋肉はしぼんでいきます(筋量も減ります)。関節運動を行ったり、重力に逆らったりするために必要な筋量が確保できなくなると、神経機能が回復した後も運動を行うことが出来なくなります。もちろん、筋肉を太くするトレーニングも難しくなり、回復が困難となります。
3)人間の脳は不使用部分を切り捨てる
つぎに、動かさない時間がながく続くと、脳内でその機能が失われます。これは「不使用の学習(learned non use)」といって、脳が未使用部分を整理し、他の良く使う部分の機能を割り当てます(使っていない=いらないと認識)。そうなると、定着していた学習内容(立つ、歩くなど)を忘れてしまい、麻痺した部分を動かすことができなくなります。こうなってしまうと、脳と体の回路がつながっても、麻痺した手足は動きません。
4)関節は動かさないと固まる
関節を動かさないとどんどん固まっていきます。固まってしまうと動かす時に強い痛みを感じます。痛さを感じると、より動かさなくなります。この繰り返しでどんどん固まってしまうことがあります。また、固まってしまった場合は、リハビリに多くの時間を割かなければいけません。
運動を行う上で重要なポイント:
脳からの指令が運動器に届くこと:神経
筋肉が衰えていないこと:筋肉
運動をおぼえていること:脳
関節がうごくこと:関節
※上記のポイントが一つでも欠けると、体を動かすことが出来ません。
短期間の自費治療よりも後遺症のほうが負担は大きい
たしかに、鍼をしたからといって、すべての人が健常時と同じ状態に戻れるわけではありません。しかし、前述した負の連鎖による後遺症(学習性不使用)を起こさないように、また、出来る限り回復できるようにすることが大切です。
足が一歩でもでること、段差が一つでもあがれること、手が少しでも開くこと、こういった小さなこと一つでも出来るか出来ないかで生活の質は大きく変わってきます。
さいごに
「後遺症が残ったあとで、、、」「まずは保険の範囲だけで試してみてから、、、」という方は多いと思いますが、本当に悪くなったあとでは、回復すること自体が難しい(=言葉通り本当に悪い状態)というのが現実です。そのため、早期から回復を目指すことをすすめています。興味のある方は、ぜひ鍼も取り入れてみてください。