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脳卒中の麻痺肢をただ動かしてもらうだけではダメな理由

脳卒中後遺症と言えば何を思い浮かべますか?片側が弛緩してしまったり、逆に緊張が強くなってしまう片麻痺でしょうか?そのほかにも、飲み込みがしづらくなる嚥下障害、排尿や排便がコントロールしづらくなったり、痛みが強く出たりする視床痛や逆に感覚が鈍くなる感覚障害など様々な症状を思い浮かべるはずです。


こういった一連の症状だけをみると、身体的な問題と考えがちですが、実際の問題はすべて「脳」から起きています。脳機能の回復が必要不可欠であり、併せて身体機能回復を行うことが重要とされています。


よく「神経はダメージを負うと変性を起こし回復をしない」と言われていますが、回復過程において患者さんの身体能力が回復していく様子を傍から見ると、正に脳の神経が回復していくかのようにみえます。実際は、ダメージを負った神経自体が回復しているわけではなく、他の脳領域が代償的に機能を獲得(学習)するため、機能が回復していくとされています。


この回復過程において、脳は生存のために新たに多くのことを学習していきます。ただし、我々の脳は時に冷徹に状況判断を行うため、我々(自我)に対して不利益な結果を生じさせることがあります。その代表は「学習性不使用(Learned nonuse)」という、いわゆる麻痺肢を使用しないこと期間が長く続くと、この”使用しないでいる状態”自体を学んでしまうという現象です。


非麻痺側(障害されていないほう)の使用比率が高くなると、「よく使う方の機能を使いやすいようにしよう」「使っていない方の機能は生存に不都合だからむしろ使わないようにしていこう」といった判断を下します。すると、麻痺側の機能は「閉じ込められた状態」となり、本来期待できた機能回復が起きなくなります。そして、一定期間が過ぎると、脳機能局在の再割り当ては打ち止めとなり、平坦化していく(回復が止まる)と言われています。そのため、麻痺肢が使いづらい場合もを使用を継続することが必要不可欠であり、早期から不必要に非麻痺側(よいほう)の使用に切り替えることは、「回復するはずの機能が回復しない」という事態を招く原因となります。


また、単に麻痺肢を動かしてもらうだけでは不十分であると言われています。拘縮予防として多動的な関節可動させること(誰かにうごかしてもらう)と、実際に脳内で「動かそう、正しく動かそう」とイメージしながら行う関節運動は、脳機能回復という面において与える影響は全く別物であると言えます。動くイメージを持ちながら動かす(動かない場合は介助をしてもらいながら動かす)ことによって、脳内に新しく身体を動かす為の仕組みが徐々に出来上がっていくわけです。逆に言うと、単に動かしてもらうだけでは、脳自体は「動かされている」としか認識していません。


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そのほか、関節運動を起こすためには、以下のポイントが必要不可欠です。①~④どれが欠けても十分な関節運動は起こりません。急性期~回復期においては①~②、後遺症期(維持期)においては筋肉の萎縮などによって③~④も併せて問題となってきます。早期から、十分なケア・リハビリを行うことが大切です。


関節運動を起こすためのポイント:

  1. 脳が運動の仕方を知っていること/学習していること

  2. 脳からの指令(信号)が筋肉に伝わっていること

  3. 関節運動を行うために必要十分な筋量があること

  4. 運動単位(morter unit)が十分に動員されること

鍼治療は、脳の循環および②と④の機能改善などへの関与が考えられます。ただし、①および③における運動の学習と筋肉量の増加に関して、鍼療法はあまり効果的ではありません。鍼は筋肉の萎縮に対し抑制作用があると言われていますが(遠田,2011)、筋肉量増加を起こすほどの刺激ではありません。リハビリに加えて鍼療法に取り組むこと、鍼治療だけではなくリハビリを行うことをおすすめしています。


”実際に回復の可能性が高いのは,本人に機能回復の強い希望があり,セラピストの指示に適切に従って随意的運動や動かそうと努力し,訓練に集中できる患者である”(井上, 2010)とされています。継続したリハビリやケアには忍耐がつきものですが、機能回復を強く望むのであれば、ぜひ主体性をもって取り組んでみて下さい。


参考文献:

[1]遠田 明子, 宮本 俊和, 福林 徹. 廃用性萎縮モデルマウスに対する鍼通電療法の効果. 2011.

[2]井上. 運動機能回復を目的とした脳卒中リハビリテーションの脳科学を根拠とする理論とその実際[J]. Medical Journal of Aizawa Hospital, 2010, 8.



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