腰痛には浅刺より深刺した方がよい。
当院では初診の患者さんには、実際使用する鍼をお見せしながら施術説明をしています。当院では40mm長 x φ0.24mmの鍼灸鍼を常用しています。腰であれば、30mm-35mm程度刺しています。もっと深部の筋肉には75mm長の鍼が必要な場合もあります。
深刺しのほうが痛いのではないか?という質問を受けますが、「チク」「ズキ」っとした切り裂くような痛みは、「皮膚の上」でしか感じません。そのため、針先が皮膚を通過した後にはそういった痛みを感じることはほとんどありません。
また、深く刺すことには理由があります。目的の部位(筋肉、神経など)に針先が到達した方がより改善しやすいと言われているためです。
藤本ら(2011)の研究「腰痛に対する腰部への鍼の刺入深度の違いによ る治療効果の相違 」によると、浅刺(5mm程度)と深刺(20mm程度)をした2つグループでは、「疼痛閾値(痛みの感じやすさ)」と「筋血流量」の項目で差があり、深刺群のほうが良好であったという結果が報告されています。
藤本らは、刺鍼位置による作用の違いを指摘し、筋の存在する位置まで刺入したほうが有効性が高いと考察しています。当該研究で脱落や有害事象もなく、深刺による問題はほとんどないと言って差し支えないと思います。
鍼灸師は、患者に対し適切な医療情報(研究報告を含め)を提供する責務があります。「患者さんが痛いかもしれない」「患者さんが怖がるかもしれない」というバイアス(先入観)だけで、「切皮(皮膚に刺さる程度)」だけの施術に切り替えたりすべきではないと考えています。患者さんから「無痛の鍼」を要求された場合は、しっかり「深刺」の理由を説明して、それでも「浅刺」を望まれる場合は、リスク(深刺よりも有効性はない)をしっかり説明した上で施術を行うべきだと思います。
鍼療法の目的は、「施術が痛いか痛くないか?」ではありません。「いかにつらい症状を軽減させるか」なのです。鍼療法は慰安ではないのです。
参考文献:
藤本 幸子, 井上基浩 他(2011)腰痛に対する腰部への鍼の刺入深度の違いによる治療効果の相違. 全日本鍼灸学会誌. 61(3): 208-217