鍼灸治療に来られる利用者さんの中に、ツボに関する知識が豊富な方がいます。例えば、私が足三里を指して「このツボは足の~」というと、「三里」というように、利用者さんから返ってきます。その際には、「もしかしたら私よりよくわかっているかもしれませんね!」なんてこちらも返すことが、ある種のお約束みたいになっています。認知度が上がるということは、我々にとっても嬉しいことです。
私は足の三里をよく使います。なかには、あえて足三里を使わないことを信条にされている先生もいるくらいですから、とにかく有名なツボで、常用穴だと個人的には感じています。この足三里なのですが、位置としては、向う脛の外側、膝のお皿の下縁から下に三寸で、骨の際から親指の幅分離れたところとなります。
ひとつのツボには、このツボは何々に対して効く!というような穴性(ツボの性質・性格)があります。ただ、この穴性というものは、未だに議論が多く、諸説あり、世界規模での統一が待たれています。
この複雑なツボですが、利用するときには、主に穴性を使います。足の三里の穴性は非常に多く書ききれませんが、例えば「お腹の問題は足三里を使いましょう。」というような古典の文言があったり、現代科学的には、脳血流量が上がったり、鎮痛目的(俗にいう鍼麻酔による脳内モルヒネの分泌促進)で高頻度の電気を流したりするわけなのですが、普通に考えて、お腹も、頭も、脛からは非常に遠いのではないでしょうか?そのため、よく言われるのは、「頭の問題に対して、なんで足三里を刺すんですか?」というような質問です。
人間の体というものは、非常によくできていて、鍼を刺すと、もちろん局所の血流量を改善するというような局所的な反応もありますが、四肢末端に対する刺激も、神経を介して、脳にフィードバックされていきます。私達が何の気なしに道を歩いている時も、足の裏から、どういった地面を蹴っているのかなどの情報が、ひっきりなしに頭に入ってきているのと同じと考えてもらって差し支えないと思います。
頭にフィードバックされた情報は、今度は、頭からの返答が「どこかしら」に戻っていきます。すると、その返答を受けた部位では「なんらか」の反応が起きるわけです。例えば、お腹(腸)の動きを整えたり、頭の血流が改善されたり、脳内モルヒネが分泌されて全身的な鎮痛が起こったりするわけです。
我々は、そういった体の反応を、鍼によって起こしているだけなのです。そのため、投薬などを行っていても、出血傾向・易感染傾向にない場合は、積極的におすすめしています。