鍼には、「補瀉手技(ほしゃしゅぎ)」という概念があります。補法は「足りないものを補う方法」、瀉法は「余分なものを瀉する方法」と考えます。このように、補法や瀉法の手技を加えてバランスを整えていくわけです。
有名な複合式補瀉手技に、「透天凉(透天涼)」と「烧山火(焼山火)」があります。前者は瀉法であり「身体を冷やす手技」となり、後者は補法であり「身体を温める手技」となります。
王財源らによる報告[1][2]では、「透天凉(透天涼)」は、局所より遠位部において温度が下降していくような現象が生じ[1]、「烧山火(焼山火)」は、皮膚温度 ・深部温度に上昇傾向が認められたとしています[2]。
<透天凉(透天涼):ビデオ教材>
<烧山火(焼山火):ビデオ教材>
解説:上記の手技をみていると、真逆の操作をしていることが判ります。透天涼では、鍼先を深部まで刺した後、引き上げるような動作(軽挿重提を6回)を繰り返しながら体表まで鍼を持っていきます(地→人→天、一進三退)。逆に、焼山火では、体表から何かを押し込むような動作(重挿軽提を9回)を繰り返しながら深部まで鍼を持っていきます(天→人→地)。
◆刺激誘発方法[1][2]
透天涼:切皮後、鍼を地部まで刺入し、その場で緊提慢按(素早く戻してゆっくり入れる)を6 回行ない人部まで引き戻して同様の緊提慢按を6 回行なう、更に天部に鍼を引き戻して同様な操作を繰り返す様にする。このように一気に刺入して 三部に分けて引き戻す〈一進三退〉を一度とする。寒冷感があったら抜鍼し、同時に鍼孔を揺さ振って邪を外に引き出すようにする。[1]
【リンク】鍼灸古典手技『透天涼』による施術, 局所および経絡上の温度変化について
焼山火:切皮後、少し鍼を止めてから上下に3回鍼を動かし、鍼を天部に戻して気をうかがう、得気後、天 ・人 ・地の三部に分けて提挿補法を各9回ずつ同一方向に回旋しながら行い、施術者が3回呼吸するのをまって鍼を人部へ進め、再度同様な 方法を繰り返してから地部まで鍼を進める。地部で同様な操作が終了したら、素早く天部まで鍼を戻して鍼体を引き倒し鍼先を経脈の流注の方向に向けて置鍼する。また抜鍼後はすみやかに鍼孔を押圧する、これが1回の操作である。[2]
<透天凉(透天涼):専門家によるデモンストレーション>
<烧山火(焼山火):専門家によるデモンストレーション>
補瀉手技をみると、鍼治療の奥深さが垣間見えると思います。ただ単に経穴(ツボ)に鍼を刺せばよいと言うわけではなく、①何の目的で②どのような刺激を③どのあたりに④どの方向に加えていくかと言ったことも大切であることがわかります。
参考文献:
[1]王 財源, 遠藤 宏, 豊田 住江, 河内 明, 北出 利勝, 兵頭 正義, 鍼灸古典手技『透天涼』による施術, 局所および経絡上の温度変化について, 全日本鍼灸学会雑誌, 1992, 42 巻, 4 号, p. 319-322.
[2]王 財源, 遠藤 宏, 豊田 住江, 河内 明, 北出 利勝, 兵頭 正義, 鍼灸古典手技『焼山火』による施術, 局所および経絡上の温度変化について, 全日本鍼灸学会雑誌, 1991, 41 巻, 4 号, p. 370-373.