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鍼とポリファーマシー。薬物有害事象リスク軽減に鍼はいかがでしょうか?

鍼とポリファーマシー

鍼療法の効果や作用機序(メカニズム)に関する質問はよく受けますが、導入するメリットに関する質問はあまり受けません。鍼を導入する大きなメリットは、「副作用がほとんどないこと」や「薬との飲み合わせによる副作用がないこと」です。言い換えれば、負担が少ない自然な療法であると言えます。昨今では、高齢者の「ポリファーマシー(多剤併用による有害事象)」が問題提起されてきており、鍼の導入は高齢者にとって非常に有益であると考えられています。6剤併用の場合、5剤+α(鍼など)になれば、1剤分の副作用リスクが減るという考え方です。もちろん、状況によっては1剤以上減ることも考えられます。


ポリファーマシーとは?

  • 複数の薬が処方され、服用している人に不利益が生じる可能性のある状況をポリファーマシー(Polypharmacy)と呼ぶことがあります。ポリファーマシーは認知症のある人や、高齢の人に不利益をもたらす可能性があるという指摘は、以前から多く報告されています。

参考:第16回 ポリファーマシーと処方カスケード|相模原市認知症疾患医療センター (kitasato-u.ac.jp)


高齢者の「ポリファーマシー」と「処方カスケード」

加齢に伴い生活習慣病や退行性疾患の併発によって多剤併用の土壌が出来上がります。そして、加齢に伴う代謝の低下によって薬効が体内に残りやすくなります。すると、薬剤個々の副作用リスクに加えて相互作用による思わぬ副作用が生じるリスクが高まります。そのほかに、多剤併用の背景には、処方カスケード(処方→処方→処方)の可能性も考えられます。多剤併用による「ポリファーマシー」や「処方カスケード」は健康上の不利益を生じるため、出来うるならば未然に防ぐことが重要です。


処方カスケードとは?

  • 服用している薬による有害な反応が新たな病状と誤認され、それに対して新たな処方が生まれるというものです。これは一つの医療機関、一人の医師の処方によっても生じます。カスケードとは小さな連なる滝を意味します。一つの薬から副作用が生じ、新たな薬による対処が生まれていくことを図示すると、小さな連なる滝のように描かれます。

参考:第16回 ポリファーマシーと処方カスケード|相模原市認知症疾患医療センター (kitasato-u.ac.jp)


処方カスケードの機序

  1. ある症状Aに対して薬Xが処方される

  2. 薬Xの副作用で症状Bを発症

  3. 症状Bに対して薬Yが処方される

  4. 薬Xと薬Yの副作用によって症状Bを発症

  5. 症状Cに対して薬Zが処方される

※薬の副作用に対して薬がどんどん処方されていく


6剤以上の併用が高リスク

副作用によるめまいやふらつき・急な眠気による転倒や、認知機能の低下などさまざまな問題を引き起こします。また、転倒によって大腿骨骨折などが起これば、そのまま寝たきりとなってしまう方もいらっしゃいます。とくに、6剤以上の併用からリスクが高まることがわかっており、注意が必要です。また、健康上の不利益以外にも、不要な通院や医療費の使用は、知らず知らずのうちに我々の負担となってきます。


東京新聞の記事によると、認知症患者の減薬を推進したところ、”薬剤費を減少・維持できた人は全ての指標で、薬剤数を減少・維持できた人は四つの指標で、増えた人より認知機能などが維持されていた。”と報告されています。

参考:減薬しても認知機能維持 多剤併用で有害症状「ポリファーマシー」改善へ:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)


がん治療への鍼の応用を例に

例として、鍼によるがん治療のガイドライン(欧米)のお話をします。下記のリストを見ていただければわかる通り、副作用・併発症の軽減(主に鎮痛)に用いられていることがわかります。また、鎮痛だけではなく吐気や不眠、口内乾燥などにも適応であることがわかります。このように、既存の治療に対して反応がよくなかった方や、何らかの理由で減薬を望む方(もしくは処置を拒否する方)への選択肢の一つとして鍼が用いられています。


鍼治療の適応と考えられる患者 (がん治療のガイドラインより抜粋):

  1. 3.1.1 一般的な鎮痛アプローチに反応せず、疼痛が残存する患者

  2. 3.1.2 過剰な鎮静剤投与などのような、通常処方に対して副作用を有する患者

  3. 3.1.3 既存の薬物の減量を望む患者

  4. 3.1.4 術創周辺(術創瘢痕)の疼痛のように鍼治療に反応しそうな疼痛を有し、それに対する 薬物投与の中止を望む患者

  5. 3.1.5 従来の鎮痛処置を拒否する患者


緩和できる可能性がある特定の症状(がん治療のガイドラインより抜粋):

  1. 3.2.1 従来の治療に反応しない口内乾燥の患者

  2. 3.2.2 手術後や化学療法により2次的に生じる難治性の悪心・嘔吐

  3. 3.2.3 進行癌による呼吸困難

  4. 3.2.4 乳癌、前立腺癌またはその他の癌に伴う 血管運動性の症状に対して、投薬に反応しない か、副作用を回避するために薬剤の代わりに鍼 を選択する場合

  5. 3.2.5 腹部または骨盤内癌患者の治療による直 腸もしくは膣の出血を伴う放射線直腸炎 78 ( 78 ) その他(海外文献) 全日本鍼灸学会雑誌58巻1号

  6. 3.2.6 手術または放射線療法(放射線療法に起 因する潰瘍を含む)により治癒しない潰瘍

  7. 3.2.7 難治性の疲労

  8. 3.2.8 一般的な治療が無効であったその他の症状(例えば不眠症)

※鍼治療は必ずしも「最後の手段」ではない点 に注意する必要がある。例えば胸部術後の疼痛 に関しては、多くの標準的な薬剤と比較して副 作用が少ないことから、症状コントロールのた めに早期に試みられる場合もある。


参考:[1]福田,文彦, 石崎,直人, 山崎,翼, et al. 鍼治療をがん患者に提供するためのガイドライン―ピアレビューに基づく方針の実例―:ピアレビューに基づく方針の実例[J]. Journal of the Japan Acupuncture & Moxibustion Society, 2008, 58:75-86.


さいごに

標準治療(西洋医学)主体から相補代替医療(CAM, Complementary and Alternative Medicine)を取り入れた統合医療が提唱されてから久しいですが、良い面だけではなく功罪どちらもある印象です。


例えば、功罪の「功」の面では、治療の選択肢や幅の広がりによって、全人的な治療を受けることが出来るといった反面、「罪」の面では、誤用による健康被害、例えば適切な時期に適切な標準治療を受けない方が増えたり(または周りが受けさせない)といった事例があげられます。


適切なCAMの運用によって、ポリファーマシーのリスク軽減は可能です。その他の傷病でも薬剤に対し強い副作用があり、既存の治療ではなかなか治療継続が難しい場合などにも有効です。もちろん、相乗効果としての鍼もよいでしょう。また、鍼などCAMを行う上で、標準治療を完全に止める必要はありません。興味のある方はぜひ鍼も試してみて下さい。


相補代替医療, CAM:

  • 一般的に従来の通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステム、施術、生成物質など


  1. 天然物(Natural Products) ハーブ(ボタニカル)、ビタミン・ミネラル、プロバイオティクスなど

  2. 心身療法(Mind and Body Practices) ヨガ、カイロプラクティック、整骨療法、瞑想、マッサージ療法鍼灸、リラクゼーション、太極拳、気功、ヒーリングタッチ、催眠療法、運動療法など

  3. そのほかの補完療法(Other Complementary Health Approaches) 心霊治療家、アーユルヴェーダ医学、伝統的中国医学、ホメオパシー、自然療法など

赤字:国家資格

国立補完統合衛生センター[米国]、2017/3/16現在


参考:厚生労働省eJIM | 「統合医療」とは? | 「統合医療」情報発信サイト (ncgg.go.jp)




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