自然治癒力?
鍼を語る上で、鍼灸師は何かと「鍼をすると自然治癒力が~」という話をしがちですが、自然治癒力とはいったいなんでしょうか?ただ金属製の鍼(主に医療ステンレス)を体に刺すだけですが、時に術者も驚くような効果がでたり、「薬でも塗ってあるのですか?」といったことを言われたりします。もちろん薬などは塗ってありません。
鍼の効果
参考https://www.harikyu.or.jp/general/effect.html
・ゲートコントロール…針刺激が脊髄において痛みを抑制する。
・エンドルフィン…針刺激がモルヒネ様鎮痛物質の遊離を促し痛みを抑制する。
・末梢神経の遮断効果…針刺激が末梢神経の痛みのインパルスを遮断する。
・経穴(ツボ)の針刺激による痛覚閾値の上昇による鎮痛効果。
・血液循環の改善…筋肉の緊張をゆるめ血行状態を良くする。
etc...
鍼はスイッチのような役割
私の個人的な意見ですが、鍼はスイッチのような役割をしているイメージがあります。鍼を刺すことによって、スイッチが入ったように体に反応が現れます。
例えば、血液循環の改善を目的に鍼をした場合、鍼をした直後から皮膚表面に発赤(フレア)が出て血流が改善します。この反応は軸索反射(じくさくはんしゃ)というもので、血流改善を引き起こす反応です。まさに、スイッチを入れるように血流が改善するというわけです。
また反応は局所のみで起きていると考えがちですが、エンドルフィン(鎮痛)の放出は局所のみで起こる反応ではなく、中枢(脳)を介した反応です。四肢末梢に鍼を刺して電気を通すことによって、脳内からモルヒネ様鎮痛物質が放出され、全身的な鎮痛効果が発現します。現在では通電頻度の違いによってβエンドルフィンやダイノルフィンなどのモルヒネ様鎮痛物質が選択的に放出されることがわかっています。
そのほかに、左手への鍼刺激によって、左手のみならず右手の血流循環が改善されて、皮膚温が上昇するといったことも起こります。この全身作用も中枢を介した反応と言えます。
鍼によって引き起こされる生体反応の利点
鍼などによって引き起こされる生体反応は「自然なもの」であり、「ホメオスタシス(生体恒常性:身体のバランス調整機構)」の一環として行われているものです。体が自然に引き起こしている反応のため、(ストップがかからず)強力に発現します。ホットパックなどの温熱療法と比較すると、同じ「血流改善」を目的にしていても、身体に起きる反応は異なります。
ホットパックは体表面から強制的に「温める」ことによって血流改善を促します。人間の体にホメオスタシスが備わっていなければ、常に温まりつづけるということが可能です。しかし、強制的に温められていると、人間の体の内部ではホメオスタシスが働き、深部の温度上昇を防ぐような働きが起こります(ストップがかかる)。これはお風呂に入っている状態と同じです。少しの時間お風呂に入っているだけで、深部温度が湯温と同じになることはないはずです。深部まで温めるには相当の温度で、長時間温める必要がありますが、温度や時間によっては「火傷」を起こす可能性もあるため限界があります。
しかし、鍼によって生体反応が引き起こされると、上記のようなストップがかかるということはなく、むしろホメオスタシスの作用で強力な血流改善や皮膚温上昇がおきます。体の反応に逆らわないため「短時間だけ」「局所だけ」の反応ではなく、「持続的に」「広範囲」に渡って効果が発現します。
最後に
こういった生体反応によって体が修復されていくことを「自然治癒力による回復」、そして鍼によって「自然治癒力を引き出す」というような表現をするわけです。もちろん肝臓や腎臓などに負担を掛けることもなく、薬との飲み合わせもありません。現代医療との併用が可能です。