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鍼をしたら良くなったけど悪くなった?ABAデザインからみる慢性疾患。

鍼をしたら良くなったけど悪くなった?

よく「ダメ元で鍼をしたらビックリするくらい痛みが取れたけど、一週間経ったら悪くなった。それって鍼のせいでしょ?怖いから鍼はもういいです、、、。」


この話は鍼灸師あるあるだと思いますが、結論から言うと「鍼のせいで悪くなった可能性はほとんどない。」です。なかには「実際、鍼をしているし、悪くなっているんだから鍼のせいだ!この鍼灸師は言い訳をしてけしからん!」という主張もあるかもしれませんが、一度論理的に因果関係を考えてみましょう。


腰痛を例にとると、、、一連の流れは以下の通りだと思います。


慢性腰痛のケース:

  1. 腰痛発症

  2. 整形外科受診、変形性腰椎症と診断される

  3. 投薬や電気治療などの標準治療を受ける

  4. なかなか良くならないことから鍼を受ける

  5. 鍼をしてよくなったけれど、一週間経ったら痛くなった

  6. 鍼のせいで悪くなった?と感じた


では、なぜ鍼のせいではないか?というと、以下のポイントがヒントとなります。


ポイント:

  • 実際に鍼施術直後は改善している

  • 変形性腰椎症の既往(元の原因がある)

  • 継続しなければ元通りになる可能性(ABAデザイン)


そのため、「鍼施術直後から一定の効果が出ているのは鍼の効果の可能性」と推測できます。また、慢性疾患では継続していない期間を(A)継続をしている期間を(B)とした時に、ベースライン(A:鍼施術前)では状態が悪く、加療期間(B:鍼施術)で改善を示したあと、フォローアップ期間(A’:鍼施術を受けていない期間)では状態がもとに戻ることがよくあります。この研究方法はABAデザインと言って、効果検証の際に用いられます。逆を言えば、A=B=A'(またはBで増悪)であれば効果がないと言えます。また、A’も改善されているようであれば、持続効果を疑います。


このように、鍼のせいで悪化していると断定される方がいらっしゃいますが、この「何かしたから悪くなった理論」でいけば交絡因子(干渉しているもの)は「鍼」以外にもあるため、同時に行っている標準治療のせいで悪くなった可能性は?とも考えなければいけません。また、このケースでは、健康な方が鍼によって何らかの健康被害を受けたわけではありません。実際は直後効果も出ているわけです。既往歴があるため「変形性腰椎症」による腰痛が一番の原因ではないでしょうか?


このケースでは単純に鍼で一定の効果(直後効果)が出たが、時間経過ともに痛みが元に戻った」と考えることができます。この状況において、鍼を1回だけで止めるのではなく、定期的に通院し一定期間継続する。また、通院間隔をもうすこし狭めてみる(例えば週2回にする)といった方法で改善がみられるはずです。


こういったケースに遭遇すると、鍼灸師の内心では「せっかく良くなる感じなのに、、、もったいない」といったところです。ただし、強引に鍼を継続させることは逆効果なため、強く勧めることはしません。


ホーン効果も原因の一つ

心理学ではホーン効果(horn effect)というものがあります。見た目や印象に引っ張られて否定的な評価をする(またはされる)というもので、例えば何かアクシデントが発生したときに、人相が悪い人をみて「絶対この人がやったはずだ。。。」と思ってしまうのと同じです。また対義語はハロー効果(halo effect)と言います。


たしかに、鍼灸は「痛そう、熱そう、怖い」とネガティブなイメージが三拍子揃っていたり、東洋医学という得体のしれない印象が強く、ホーン効果が発生しやすい土壌にあると思います。何かあると「悪くなったのは鍼のせいじゃないか?(ホーン効果)」、「治ったのは鍼ではなく他の療法のおかげじゃないか?(ハロー効果:ホーン効果の逆)」と言われやすい印象です。


さいごに

健康の方が鍼で肺損傷を受けたような「(肺疾患の既往がなく)健康→鍼による明らかな外傷→気胸」というようなものでなければ、鍼のせいで悪化(健康被害)したとは言えません。ほとんどの場合は、原疾患によるものです(要するにぶり返し)。もし一度、鍼で症状が改善したようであれば、適切な通院間隔を守りながら一定期間継続してみて下さい。慢心せずに継続することが改善の第一歩です。

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