当院では、「鍼治療」と「リハビリテーション」の併療を推奨しています。時々、「鍼治療とリハビリテーションどちらが有効か?」といった質問をされます。もっと踏み込んだ質問ですと、「どちらかに絞りたいので回答してほしい、、、」といったものもあります。
実は、「鍼治療」と「リハビリテーション」は目的と機序が違うため、単純に比較することはできません。臨床研究では、単一の治療方法の効果を検討するため、被験者に対する治療方法を一つに絞ることはあります。しかし、臨床においては、その必要はありません。
末梢性顔面神経麻痺の治療を例に挙げると、鍼治療は「局所の循環改善」が主な目的です。ミラーバイオフィードバック法(MBF法、鏡をみながら表情をつくる方法)などのリハビリテーションは、「正しく表情を動かせるようしたり、損傷を受けた神経の混線を防ぐこと」を目的に実施します。このように、「局所の機能改善および回復促進」と「運動機能改善および後遺症予防」は役割分担が違うわけです。そのため、どちらかに絞るよりは、どちらも並行して実施する方が相乗効果が期待できると考えます。
車の運転を例に、鍼治療を「車体の修理」、リハビリテーションを「運転能力の習得」とします。いくら運転が上手なドライバーがいても、車体に問題があれば、車は動きません。また、車体に問題がなくても、ドライバーが運転の方法を知らなければ、車を動かすことが出来ません。なぜなら、「動かすに足りる車体」、「運転をすることが出来るドライバー」の二者が揃って初めて「車が動くこと」が可能となるわけです。このように「動かす」ということは様々な要素が必要です。
そのほか、脳卒中後遺症に対する「鍼治療」と「リハビリテーション」を組み合わせた施設が日本にも増えていますが、これも同様の理論に基づいていると感じています。名老中医である武連仲教授(天津中医薬大学第一附属病院)の話に「片麻痺患者の筋力出現と筋張力緩和には鍼を、筋力の増強と運動機能回復にはリハビリテーションが必要だ。[1]」という言葉があります。このように、両者の目的は全く違うため、片方に絞るのではなく、組み合わせることが最適な治療戦略と言うわけです。
鍼治療というものは決して万能ではありません。しかし、適切な状況で使用することで、期待した効果を得ることが可能だと考えています。
参考:
[1]吴芬芬, 武连仲, 孟智宏. 武连仲教授妙用"下极泉"治疗上肢痉挛性瘫痪[J]. 针灸临床杂志, 2012, 28(11):3.