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鍼治療をがん患者に提供するためのガイドラインを読んで。

「鍼治療をがん患者に提供するためのガイドライン(2008)」という論文(訳文)が発表されています。これはAcupuncture in Medicine誌に掲載された論文 (Jacqueline Filshie, Joan Hester: Acupuncture in Medicine 2006;24(4):172-182) を日本語訳にしたものです。


この中で、鍼治療の適応患者について記述があります。

一般的な適応:

  1. 一般的な鎮痛アプローチに反応せず、疼痛が残存する患者

  2. 過剰な鎮静剤投与などのような、通常処方に対して副作用を有する患者

  3. 既存の薬物の減量を望む患者

  4. 術創周辺(術創瘢痕)の疼痛のように鍼治療に反応しそうな疼痛を有し、それに対する薬物投与の中止を望む患者

  5. 従来の疼痛処置を拒否する患者

ガイドラインでは上記の患者に対して、鍼灸治療が適応となっています。基本的には、鎮痛に関連した項目が多く見受けられました。鎮痛剤使用に対し何かしらのアクションがあった場合に、鍼灸治療の併用または切り替えを行うといったものです。


その他に、個々の症状に対する記述もあります。

緩和できる可能性がある特定の症状:

  1. 従来の 治療に反応しない口内乾燥の 患者

  2. 手術後や化学療法により2次的に生じる難治性の悪心・嘔吐

  3. 進行癌による呼吸困難

  4. 乳癌、前立腺癌またはその他の癌に伴う血管運動性の症状に対して、投薬に反応しないか、副作用を回避するために薬剤の代わりに鍼を選択する場合

  5. 腹部または骨盤内癌患者の治療による直腸もしくは膣の出血を伴う放射線直腸炎

  6. 手術または放射線療法(放射線療法に起因する潰瘍を含む )により治癒しない潰瘍

  7. 難治性の疲労

  8. 一般的な治療が無効であったその他の症状(例えば不眠症)

ガイドラインでは上記の症状を鍼治療で改善できる可能性があると考えているようです。どちらかと言えば、本治療(がんを叩く)ではなく、化学療法や手術に併発する症状(吐き気・口内乾燥・呼吸困難など)の改善や緩和に鍼灸治療を行うといったものです。


ガイドラインには載っていませんでしたが、麻薬性鎮痛薬(オピオイド系鎮痛薬)使用によって併発した便秘に対して、鍼灸治療が役に立つといった話を良く耳にします。これも併発した症状に対する鍼灸治療の応用ですから、ガイドラインの内容と趣旨は同じであると思います。


吐き気や便秘などに対する鍼治療は、体性ー内臓反射を応用した方法で、特別がん治療だけに使用されている方法ではありません。また、呼吸困難に対する鍼治療も、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などに応用されている呼吸筋の改善と中医学的な肺や腎(主に肺は呼吸器、腎は吸気を主る)の機能改善を目指した方法で、これも一般的なものです。


がん患者に行われている鍼治療は、特別なものはなく、一般的な鍼治療を応用したものが主体です。そのため、鍼灸治療単体によるがん治療は難しいといえますが、現代医療と併用することによって、「患者の生活の質(QOL)」を改善することが可能であると言えます。


もちろん薬物との「飲み合わせ」がなく、リハビリ等の運動療法と一緒に併用可能です。


参考文献:

[1]福田 文彦, 石崎 直人 他(2008), 鍼治療をがん患者に提供するためのガイドライン : ピアレビューに基づく方針の実例, 全日本鍼灸学会雑誌 58(1): 75-86



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