鍼灸治療は、最後の砦ではない。早期利用開始のすすめ。
日本において、鍼灸治療は、相補代替医療(CAM)という現代医療を補完する位置付けに置かれています。そのため、鍼灸治療を試してみるという方は、「現代医療において十分な効果が得られなかったから試しに鍼灸治療を試してみよう」であったり、「散々いろいろな治療法を試したが効果が著しくないので鍼灸治療でどうにか治らないか」といった考えをお持ちの場合があります。
しかし、最初に断言しますが、鍼灸治療は何でも治せる魔法の治療方法ではありません。鍼灸治療は効くのか効かないのか?これは症状や体質によって変わってくるため、一概にすべて効くとはいえないのです。例えば、可逆的な(元に戻る)問題・機能的な問題(自律神経の興奮異常)によっておきるもの。血流障害などによっておこる腰痛や肩痛、下痢や便秘を繰り返す神経因性の過敏性腸症候群などは改善が期待できます。
逆に、脳卒中後の運動麻痺であったり、陳旧性の難聴・顔面神経麻痺(後遺症)など、神経系統の不可逆的な(戻りづらい)問題が発生した場合などではどうでしょうか?新鮮例(発症すぐ)では治療効果が期待できますが、症状が固定された後に鍼灸治療を試してみても、著効するといったことはまず難しいでしょう。中には、鍼灸治療開始直後から著しい改善がみられる場合もありますが、すべてがすべて同じ経過を辿るわけではありません。
では、鍼灸治療は、本来どのようなタイミングで利用すべきものなのでしょうか?慢性期や後遺症期のみならず、急性期・亜急性期・回復期から、現代医療と同時に並行して利用すべきだと思います。とくに、症状が固定されると、著しい改善が望めない場合は、回復期までに積極的に利用開始すべきです。一般的に、鍼灸治療の費用は、急性期でも慢性期でも変わりません。効きやすいときに、集中して取り入れるべきです。
私が留学していた天津中医薬大学の第一付属病院は「醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう):脳卒中後遺症に対する鍼灸治療」が有名です、鍼灸科の病棟・外来問わず急性期から鍼灸治療を行っています。日本において、鍼灸治療を脳卒中の急性期から取り入れるということはなかなか難しいと思います。しかし、脳卒中後遺症に限らず、できるだけ回復の見込める時期からの早期鍼灸治療をすすめています。
著しい出血傾向・感染傾向・炎症傾向などを除いて、鍼灸治療適応となります。また、投薬中でも飲み合わせなどの問題も発生しません。望んだときに、治療方法の一つとして取り入れることができるのです。鍼灸治療を最後の砦にすることはやめましょう。