よく頂く質問で、1回で治るかどうかといった質問があります。
はっきり申し上げると、1回で治るかどうかは鍼灸師にもわかりません。何故かというと、個人差があるからです。個人差は、症状、体質などによって左右されるため、額面通りの
「○○病」「○○症候群」「○○炎」といった病院で診断された名前や症状だけでは、鍼をして1回でどうなるかどうかとは何とも言えないのが現状です。
実は中には1回~数回で劇的に痛みがとれる場合や、歩行が改善されたりといったこともないわけではありませんが、全ての症例で同じような結果が起きるわけではないため、無責任に言い切ることができません。
通常、臨床研究などでは3カ月(12週間)、週2~4回などの鍼灸治療介入を行って、結果がどうであったかということをエンドポイント(効果判定)に設定しています。難治性の疾患の場合は、更に長い期間を設けて研究を行うケースもあります。直後効果などをエンドポイントにした基礎的な研究(単純に何が起こるかどうか)を除いて1回や数回の介入で結論を出すことはありません。
また、研究モデルは、前後比較モデル(治療前と後でどう変わったか)よりも、多群間比較モデル(治療をした場合としなかった場合で違いがあるか?違う治療方法との違いはあったか?)の方がよりベターな手法となります。前後比較では、経時的な回復(もしかしたら勝手に治った)といった要素も考えられるからです。
では比較して違いがあったということは、どういうことでしょうか?統計学的な手法に基づいて計算するわけですが、一般的な統計とは違います。数値の大小や見た目が似ているということではなく、明確に確率として数値を計算していきます。もし違う!と判定された場合は、効果ありとするわけです。
じつは統計学上で差があった場合でも、臨床では「良くなる人」と「変わらない人」「逆に悪くなった人」というのが存在します。しかし、「じゃあ全然効果ないじゃないか!!」と決めつけることはできません。なぜなら効果ありというのは、前述したように、統計学的に差があったということですので、治療介入すれば全員が治るという意味ではありません。言い方を変えると、「治療介入したほうが改善する可能性がある」という意味です。
現代では科学的根拠というのは、統計学に裏付けられた差です。そのため、「介入して治らなかったから科学的根拠がない」であったり、「1回でよくならなかったら効果がない」というわけではありません。
「科学的根拠に基づいた治療を行っても、絶対に治るわけではない。」「科学的根拠に基づいた治療を行っても、1回で治るわけではない。」ということになります。
他の治療方法を試して、もう鍼灸治療以外ない、どうしてもこの辛い症状を改善したいといった場合は、鍼灸を試してみることをおすすめしています。試す場合は、まずは3カ月間、週2回以上は継続してみましょう。「今回は良かったけど、初めての時はそこまで効かなかった。」また「1回目は効いたけど、2回目はだめで、3回目は効いた。」ということもあります。一喜一憂せず一定期間試してみましょう。