題名の通りですが、「鍼ってどれくらい入りますか?」「鍼はどのくらいの深さで刺しますか?」といった質問をうけることが多々あります。実はこれは、非常に答え方が難しいです。とくに「何cm刺さるのですか?」といったことは実は非常に答えづらいのです。
ずばり刺入する長さ(深さ)ですが、部位によって変わってきます。背中ひとつとっても、肩甲骨(背中の両端にもりあがる骨)の間、背骨に近いところと肩甲骨の内側縁のところ(外側)では鍼の安全深度が違います。背骨付近では胸郭への距離が長いことと、脊椎があるため、2~3cm刺し入れても問題はありません。もっと深く入れても脊椎にあたるため、無理に刺入しないかぎりは胸郭に入る心配はありません。逆に言うと、肩甲骨内側縁付近では、胸郭への距離が近いため、何cmも刺入することはありません。胸郭内には肺や心臓などの臓器しかないため、危険しかありません。
その他に、感覚異常がある場合は、皮下にとどめる場合があります。逆に筋肉に対する刺鍼では筋肉へ、神経にアプローチする場合は神経近傍へ鍼先をもっていきます。筋肉でも「表層の筋肉」と「深層の筋肉」、「厚めの筋肉」と「薄い筋肉」への刺し方に違いがあります。ぎっくり腰などで腰が伸びない場合などは「大腰筋(だいようきん)」という背骨の前(腹側)にある筋肉を目的に鍼を刺入します。その場合は、背骨を超えた位置まで鍼先をもっていかなければならないため、75mm程度の長さの鍼を使用します。神経刺鍼ですが、例えば坐骨神経にアプローチをする場合は、おしりに鍼を打ちます。おしりには脂肪が多いため、75mm~90mmの長さのものを使用する場合があります。
以上のように鍼の刺入れる深さは、目的や場所によってさまざまです。「表層の筋肉の問題」や「皮膚上または皮下にとどめる場合」では浅めに鍼を刺しますが、「深部の問題」などでは、深めの鍼をすることが必要です。
私は説明時に、実際の鍼をみてもらいます。中には、「こんな鍼が何cmも入るなんて怖い。」「鍼を刺さないで、マッサージなどでなんとかならないか?」「表面に電気を流したりでなんとかならないか?」という方もいます。もし、「表層でアプローチしやすい場合」などでは、撫でたり擦ったり、電気を流してもよいかもしれません。しかし、「手の圧力は深部まで届きにくく」、「皮膚表面への通電も、なかなか深部まで届きづらい」です。そのため、もし「深い所に問題がある場合」は鍼の一番の利点である「深いところまで届く」ことが重要になってくると思います。
鍼の深さは、患者さんの症状や状態によって変わってきます。マッサージなどの徒手療法を試したあと、思ったように効果が出なかった場合は、一度鍼を試してみるのも一つかもしれません。