鍼灸鍼の太さって?
一般的に普及している鍼の太さは0.16~0.30mmです。番号で表すと1番から8番です。昨今では1番より細い0.12~0.14mmなどの鍼も市場に出始めましたが、個人的には一般的な太さではないと考えています。
数値で言われても、なかなかピンと来ないと思いますが、髪の毛(0.08-0.14mm)と同程度か少し太いくらいです。よく注射鍼くらい太いのではないか?と勘違いされる方もいらっしゃいますが、仕様上の性質から太さは大分異なります。
注射鍼は薬液を通過させるため、中が空洞になっています。そのため、一般的に0.7~0.9mmとなっていて、0.2mm程度の鍼灸鍼と比較すると3~4倍太いことがわかります。
鍼灸鍼と注射鍼の違い
鍼灸鍼は注射鍼に比べて様々な特性があります。
鍼灸鍼:
・弾力性があり軟らかい
・中が空洞ではない
・先端が丸い
注射鍼:
・弾力性はなく硬い
・中が空洞
・先端が鋭い
鍼灸鍼は目的の部位(深度)に抵抗無く刺し入れることを目的としているため、親和性が高くなるように一定の弾力があります。また、血管に挿入することや組織を切ることを目的としていないため、先端は丸く余程のことがない限り、太い血管を傷付けてしまうことはありません。
細い鍼を選択してはいけない場合
一般の方が鍼灸を避ける理由は、「怖い」「痛そう」といったネガティブイメージから来るものだと思います。そのため、多くの鍼灸院は「痛くない鍼」を標榜し、細い鍼(0.12~0.16mm)を使用するケースが増えてきています。※中国では0.24mm程度が主流
たしかに使用する鍼灸鍼が細ければ細いだけ、組織を傷付けるリスクは減ります。また、細ければ細いだけ痛みも少ないと言えます。しかし、漠然と細い鍼だけを使用すればよいかと言えば、そうとも限りません。以下のような場合は、鍼は一定の太さが必要です。
一定の太さが必要な場合:
・深部に鍼を刺す場合
・筋肉に刺入する場合
・通電をする場合
・鍼を操作する場合(手技)
etc...
・深部に鍼を刺す場合:
深部に鍼を刺す場合、鍼が細すぎると軟らかすぎて(親和性が高すぎる)、鍼先の方向を見失いやすく、どこに針先が到達しているのかわからないという理由で、使用は避けるべきです。体の外から見た鍼の方向と体内で実際に刺さっていっている方向が違うと、思わぬところで臓器を傷付けていたり、目的部位にいくら経っても到達せず、結果として負担が増えてしまう可能性も十分に考えられます。鍼先が間違って肺に進入してしまえば「気胸」となり、重大な事態を招きかねません。
・筋肉に刺入する場合:
筋肉に刺入する場合、鍼が細すぎると急な体動(緊張や鍼への反応)で、鍼が筋肉に絡まり、抜けなくなることがあります。細ければ細いだけ折れ曲がりやすく、筋中で複雑に絡まり、力を入れて引き抜くと、鍼と持ち手部分の接合部に負荷が掛かりブチッと切れてしまいます。埋没したまま皮下や筋中に残ってしまうと、切開をして取り除く必要がでてくる可能性もあるため、細すぎる鍼の使用は不適切だと言えます。0.24mmなど太い鍼であれば、体動がおきても折れずにたわむ程度で、折れてしまうようなこともありません。
・通電をする場合:
通電をする場合、鍼が細すぎると通電によるストレスでポキっと自然に折れてしまうことがあります。そのまま皮下に埋没してしまう可能性もあるため、通電時には0.20mm以上の鍼を使用しなければいけません。よく0.16mmなどの細さで通電をしている話を耳にしますが、やたら細い鍼を使用している院や鍼灸師には注意が必要です。負担軽減のために使用している細い鍼が、結果として手術をしなければいけない事態を招いてしまっては本末転倒と言えます。
・鍼を操作する場合(手技):
鍼を操作する場合、鍼が細すぎると適切な手技が行えない可能性があります。例えば、研究と同じ処方(や手技)を再現する時に、鍼の太さや手技が違う場合は、再現性が高いとはいえません。再現性が高くない場合は、本来の効果が期待できないため、自己流で鍼の太さ(や手技)を決定することはよくありません。処方によっては「手技が痛みを伴う」場合もありますが、再現性は無視できません。
最後に
鍼による過誤(事故)は、鍼が太いから起きているわけではありません。細い鍼を使用したことによって起こる過誤も多く、鍼灸師は適切な鍼の選択や運用が求められています。
「痛みがないように」といった理由で、施術を受ける側の希望に応えようとすることも必要ですが、無理に応えようとしてリスクを無視した結果、重大な過誤を引き起こしてしまっては元も子もありません。
また、施術を受ける側も「鍼は細ければ細いだけよい、、、」であったり「痛みがなければないだけよい、、、」といった間違った宣伝に惑わされず、何故一定の太さや刺激が必要なのか?といったことを考えてみましょう。