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  • 執筆者の写真三焦はり院

鍼療法の潜在需要 - 脳卒中や顔面神経麻痺などを例に -

鍼療法とその受療状況

鍼灸の年間受療率は、2002年度~2018年までで4.0%~7.5% 程度と言われているとおり(矢野忠, 2020)、あまり馴染みがないものだと思います。視点を変えると、一定数の方は何らかの魅力を感じながら鍼を受療しているとも言えます。


鍼療法と言えば肩こり・腰痛・関節痛などに対する「鎮痛」のイメージが強いと思います。健康保険の適応症も慢性疼痛になっており、安全性も含め鎮痛に対して有用だと感じていますが、受療率はあまり高くありません。また三療法の中では鍼療法単独での受療率は低いことがわかっています(藤井, 2013)。


慢性疼痛の取り扱いが一番多いが、、、

一般的な鍼灸院では「圧倒的に慢性疼痛への取り扱いが多い」と言われていますが、全体の受療率から鑑みると「慢性疼痛に対する鎮痛目的での鍼療法」が浸透しているとは言えません。「慢性疼痛」は高齢者の多くが罹患するもので、鍼も健康保険利用が可能ですが、肌感覚としても「慢性疼痛」に対する需要はそこまで高くはないのではないか?と感じることがあります。


理由としては、「(投薬、湿布、リハビリなど)他に選択肢が多い」ということが原因ではないか?と感じています。鍼は「痛そう」「怖い」「(原則自費だから)費用が高い」とネガティブなイメージを持たれやすいと言われているため、「可能であれば他の保険医療がよい」であったり「他の徒手手技療法(マッサージなど)を受けたい」と考える方も少なくありません。


そのほか、鍼(灸・整骨など)施術所における健康保険利用は制約が多く、医師から同意書の取得が必要であり、医科との併療もできません。多くの方が健康保険利用を希望すると思いますが、要件を満たさない場合には健康保険が使えず、「(他の保険医療を検討しますので)鍼療法は結構です。」となることもあるわけです。


では鍼療法はどの分野でも低調なのかというと、一概にそうとも言えません。現在日本国内では脳卒中(脳出血、脳梗塞など)に対する自費リハビリのプログラム(鍼含む)が増えてきています。費用の相場は2か月で30万~と高額に設定されている場合がほとんどですが、背景にはリハビリの上限が180日に設定されていること、年齢によっては介護保険による訪問リハビリが受けられないことなどから需要が高まっていると言われています。


脳卒中に対する鍼療法の話になると、「本当に鍼は脳卒中に対して有効なのか?」という質問をされます。たしかに、日本では馴染みがない方が多いかと思いますが、脳卒中に対しての鍼療法は有効であると報告がされています。現に、私が留学していた天津中医薬の第一附属病院の醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)という脳卒中に対する特殊鍼法が有名です。同治療方法は70年代より普及し、鍼灸外来は一日2,000人以上受療者がおり。在籍中にも多くの研修団が各国から来られていました。


強い受療動機・継続意欲が必要

治療を継続するためには、強い受療動機が必要です。例えば、「他に方法がない」「併用でも良いから何とかしなければいけない」という動機が強い方のほうが受療意欲は高い印象です。脳卒中以外にも、審美性を損なう末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺、ラムゼイハント症候群)やパーキンソン病などの神経変性疾患、緊張型頭痛、肩こりなども潜在的な需要があるように感じます。


  • 脳卒中:健康保険利用時に日数制限がある(180日が上限)、介護保険利用できない場合(比較的若い方など)は自費リハビリなどを利用する以外に方法がない。一般的に発症後180日を超えると症状は固定され後遺症が残存すると言われているが、全症例で同様の経過を辿るわけではないため、機能回復を強く望む方にとって自主リハビリや鍼療法は十分に選択肢となりえる。とくに回復傾向にある場合は検討すべきと言える。


  • 末梢性顔面神経麻痺:現代医療ではステロイドパルス療法(+抗ウィルス薬)の早期大量投与と自主的なマッサージが主体。ベル麻痺の自然治癒率は高いが、麻痺が高度な場合は後遺症が残る可能性もある。完全麻痺例への外科手術、長期罹患による後遺症(拘縮)に対して外科手術・ボツリヌス療法が行われる。また、ラムゼイハント症候群の自然治癒率はベル麻痺に比べて極端に低いことから鍼療法を含めたアフターフォローの充実など質の高い治療内容を求められる方も多い。治療方法に選択肢があまりないため、局所循環改善・神経促通目的での鍼療法は選択肢の一つとなる。また、顔面神経麻痺は審美性を著しく損なうため、受療動機・継続意欲も高い傾向にある。自然治癒が多いため臨床研究は乏しいが、東京女子医大や埼玉医科大学から有効性に対する報告がなされている。鍼灸治療|顔面神経麻痺 (twmu.ac.jp)


  • パーキンソン病・パーキンソン症候群:数年のハネムーン期においてはドパミン製剤が著効するが、徐々に副作用が目立つようになる。薬物療法と同時に運動リハビリによって身体機能維持が行われるが、徐々に進行していく。症状緩和、薬物療法の副作用緩和、運動機能・自律神経機能改善に対して鍼療法は選択肢の一つとなる。パーキンソン症候群(多系統萎縮症、進行性核上性麻痺など)ではドパミン製剤が効かないことが多く、進行も早いため鍼療法を早期から検討される方も。また、パーキンソン病と言えば震えなどの運動症状が有名であるが、必発とも言える便秘の改善を受療動機とする方も少なくありません。


  • 緊張型頭痛・肩こりなど:頭痛薬を頻回に内服することによって「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」や胃腸障害が生じることがある。薬物からの離脱や漸減目的、副作用緩和に対して鍼療法は選択肢の一つとなる。こういった薬物療法が困難な症例では受療動機・継続意欲も高い傾向にある。


さいごに

国民の嗜好性や社会医療保険制度などの影響もうけるため、受療率の低さだけで鍼の有効性・有用性がどうであるか、、、は一概に言えません。実際に、ドイツでは大規模な研究の結果、従来の治療方法(薬物投与、理学療法、リハビリ運動など)よりも鍼の方が優れていることが判り、腰痛症に対して保険適応がすすめられたといった報告もあります。


鍼療法は「お金を払って鍼を刺されて痛い思いをする、、、」と揶揄されることがあります。たしかに言い得て妙で、強い受療動機や継続意欲がない場合には脱落して当然であると思います。裏を返すと、継続加療されている方は本当に鍼療法に価値を見出しているとも言えます。いわゆる「そんな痛い思いをするのに、その方にとってはよほど鍼療法はよかったんですね!」と言うわけです。


鍼療法に対する強い受療理由をお持ちの方の中にも、受療を躊躇されている方・検討中の方も多くいると思います。もし「他に適当と思える治療方法がない」であったり、「すでに標準治療を受けたがなかなか成績がよくない」といった場合はぜひ鍼療法を試してみて下さい。\

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