先日、「鍼灸と免疫」について文献を調査してきて紹介してくれないかという話を頂きました。免疫系、、、とくにメインテーマが「がんに対する治療方法」ということで、色々調べたところ、免疫系統に作用する可能性を示唆した研究論文がみつかりました。本コラムで紹介していきたいと思います。
論文:Acupuncture stimulation enhancessplenic natural killer cell cytotoxicity in rats
(ラットにおける鍼刺激刺激によるNK細胞活性の増強)
グループ分けと介入方法:
1)治療群: 足三里(すねのあたり)相当部位に鍼通電を行ったラットのグループ
2)シャム群:腹部に鍼通電を行ったラットのグループ
3)コントロール群:無処置ラットのグループ
治療群において、脾臓中のNK細胞(ナチュラルキラー細胞)活性が増強したことが示されたそうです。このNK細胞ですが、免疫系統の一つで、名前のとおり、突然変異した細胞などを殺す役割などを持っています。活性が増強されるということは、体内において、免疫力が上がったといえます。
また、この3グループから抽出した血清をラットに注入したところ、治療群の血清を注入したラットのNK細胞活性が増強したという結果を示したそうです。
重要なポイントは、以下のとおりになります。
1)治療群のみ増強されたということは、足三里というツボの特異的作用(足三里のみのスペシャル効果)と言える。シャム群において同様の結果が出た場合は、皮膚刺激によって引き起こされた可能性も否定できない(非特異的作用)。
2)足三里に鍼通電を行うと免疫力が上がる可能性
3)鍼通電したあとの個体の血清は同様の効果を保持している可能性
ただ、一つ問題は、「免疫力が上がった≠がんに効く」というわけではありません。「免疫力が上がった=がんに効く」の図式を成り立たせるには、鍼治療によって強化された免疫系統が、がん細胞を死滅に導かなければなりません。がん細胞は免疫系統を欺く偽装工作を行い、免疫系統からの攻撃を無効化します。免疫力向上だけでは、がん細胞は叩けないのです。
昨今は、オプシーボ(一般名:nivolmab)という癌治療薬が、様々な癌に対し認可の方向にきています。これは免疫チェックポイント阻害薬といって、「がんの偽装工作を解除して、裸になった癌を叩く治療法」です。こういった新たな治療法が増えてくる中、鍼灸治療においても、相乗効果などの研究が報告される日がくるかもしれません。
今回紹介した「鍼通電によるNK細胞活性の増強作用の可能性」は「鍼通電→免疫力向上→健康を維持する」といった「未病医学的な観点」では喜ばしい研究報告といえます。虚弱体質で体調がすぐれない、、、そういった方は、鍼治療をしてみてはいかがでしょうか?
参考文献:
Sato T, Yu S, Guo S Y, Kasahara T,Hisamitsu T. Acupuncture stimulation enhancessplenic natural killer cell cytotoxicity in rats.Jpn J Physiol. 1996; 46: 131-6.