頚椎症に対する「局所取穴」と「混合取穴(局所+遠隔)」の効果を比較した文献「不同远端取穴针刺治疗颈型颈椎病的临床随机对照试验(和訳:異なった遠隔取穴による頚型頚椎病に対する鍼治療のランダム化比較試験)」[1]を見かけたので読んでみました。
研究デザインは下記のとおりですが、治療対象となる「頚型頚椎病」を調べたところ、定義は「①患者の主訴は、後頭部・頚部・肩部の疼痛等異常感覚、それに関連する圧痛点を伴うもの。②頸椎の退行性病変を画像所見にて認めるもの。③その他頚部の疾患、あるいはその他疾病に伴う頚部症状を除外したもの。」[2]とされていました。
そのほか、参考文献[2]によると、①「頚型」以外に、②神経根症状のある「神経根型」、③脊髄症状のある「脊髄型」、④その他(「椎骨動脈型」や「交感神経型」)といった具合に、臨床症状や所見から分類がされているようです。
1)研究デザイン[1]:
対 象)頚型頚椎病患者 147 例
方 法)1:1:1のランダム化比較試験
治 療)
①対照群(局所):局所取穴
②治療1群(混合):局所取穴+後渓(こうけい)
③治療2群(混合):局所取穴+合谷(ごうこく)
方 案)
①局所:風池(ふうち)、風府(ふうふ)、完骨(かんこく)、天柱(てんちゅう)、肩井(けんせい)、第3~6頸椎の夹脊穴(きょうせき)
②遠隔:後渓、合谷。
③治療:隔日1回、2週間。置鍼30分。
評 価)
①痛みの評価(MPQ)
②機能障害の評価(NDI)
③生活の質の評価(SF-36)
④総有効率
評価時期)
①2週間後(即時効果)
②1カ月後(持続効果)
<天柱>
<肩井>
<後渓>
<合谷>
2)結果[1]:
局所取穴と混合取穴の「即時効果」と「持続効果」を比較すると、MPQ(痛みの評価)とNDI(機能障害の評価)においては、即時効果と持続効果の両方で混合取穴(②治療1と③治療2)の方が優れていた。
合谷よりも後渓を用いた方が、MPQとNDIの即時効果の面で優れていたが、持続効果では差がなかった。
いずれの方法においてもSF-36(生活の質)は改善された(統計学的有意差なし)。
総有効率において、「治療1」は対照群より優れており、「治療1と治療2」、「治療2と対照群」では統計学的有意差はなかった。
局所取穴に後渓を加えた治療方法(②治療1)が最も効果的であった、持続効果もよい。
今回紹介した文献[1]では、比較対象に「無治療群(何もせずに自然経過をみるグループ)」を設定していません。治療介入の前後比較だけですと、「自然経過による症状改善も考慮すべき」となるため、当該文献[1]の「局所治療の効果」に関しては、あまり信頼性が高くないと考えます(注:効果がないと言う意味ではなく、疑問が残るという意味)。著者は、「遠隔も用いたほうがよい。どちらかと言えば後渓がよい。」と言ったメッセージに捉えさせて頂きました。
文献[1]内の使用穴を、まず局所から分解していくと、、、風池、風府、完骨、天柱は後頭部と後頚部の繋ぎ目、後頭下筋群の一部や僧帽筋の付着部に相当します。また、肩井は僧帽筋上部繊維、いわゆる肩をトントン叩く部位に相当します。夹脊(背面正中線から指半分外)は脊柱近傍のため、神経や脊柱起立筋等に関係がある部位に相当します。
つぎに、流注(るちゅう、経絡の通り道)に注目しながら遠隔を分解していくと、、、後渓は太陽小腸経、合谷は陽明大腸経にある経穴となります。頚部に対しては、上記二経を含む「手の三経(①陽明大腸経、②少陽三焦経、③太陽小腸経)」が遠隔取穴として使用されることが多い印象です。
太陽小腸経はどちらかと言えば、肩甲骨上を抜けて、首の後ろ側を走っていきます。陽明大腸経は肩の前側を抜けて、首の前外側を走っていきます。その他、少陽三焦経は首の外側(頚部では陽明大腸経と太陽小腸経の真ん中のイメージ)を走り、ツボであれば外関がよく用いられる印象です。その他、後渓は「八脈交会穴」の一つで、督脈(とくみゃく、主に後正中線上を走り頭に入る経絡)に通じるとされているため、後頚部、後頭部、背部へのアプローチにもよいとされています。
顾(2023)は、「異なった遠隔取穴によって異なった効果を生む。違いを調査することで、臨床において患者の訴える臨床症状に適した治療方案を選ぶことが出来る。」と述べています[1]。臨床において、訴える症状に合わせてたツボを加えると良いのかもしれません。また、頚型頚椎症では、小腸経・督脈タイプが多いのかもしれません。
さいごに、著者の「後渓」にまつわる学生時代の思い出を一つ、、、首の寝違えを起こしたクラスメイトの「後渓」に、とある教員が皮内鍼(いわゆるシールタイプの置鍼、1mm程度)を貼付したところ、短時間で症状が改善したことがあり非常に驚きました。
寝違えですと、他に「落枕(らくちん)」と言うツボが有名です。落枕は、手の甲にある「経外奇穴(けいがいきけつ、経絡外のツボ)」ですが、中国語で「寝違え(落枕、lào zhěn[lao4 zhen3])」と言う名の通り「特効穴」です。寝違えた際に、圧したり揉んだりしても良いかもしれません。
<落枕>
このように、遠隔のツボを用いたり、組み合わせることで相乗効果を生むのも「東洋医学の醍醐味の一つ」と言えます。
参考文献:
[1]顾彦冬.不同远端取穴针刺治疗颈型颈椎病的临床随机对照试验[J].天津中医药, 2023, 40(6):759-763.
[2]中华外科杂志编辑部.颈椎病的分型、诊断及非手术治疗专家共识(2018)[J].中华外科杂志, 2018, 56(6):401-402.