鍼の手技操作
実は、鍼は決して「ただ鍼を皮下に刺入するだけ」ではありません。鍼の手技操作は、①場所;②深さ;③角度;④刺激量に基づいて決定されます。 どれか一つ欠けても思ったとおりの結果は得られません。
今回は、神経根性頚椎症に対する刺鍼方法の違いによる影響を紹介していきます。.
頚椎症性神経根:
症頚椎症性神経根症(けいついしょうせい しんけいこんしょう)は、頚椎の変性(椎間板ヘルニア、骨棘形成など)により、椎間孔の狭窄が生じ、神経根が圧迫され、主に片側に痛みやしびれが生じる疾患です。
参考:https://toutsu.jp/pain/keitsui.html
まずは論文から、、、
タイトル:极泉穴不同操作对神经根型颈椎病疗效的影响
(極泉穴に対する異なった手技操作が神経根型頚椎症の治療効果に及ぼす影響)
アブストラクト(原文):
目的:观察极泉穴不同手法操作对神经根型颈椎病引起的上肢感觉异常的改善程度。方法:将107例患者随机分为3组。提插组37例采用极泉穴提插手法操作;捻转组36例采用极泉穴捻转手法操作;常规针刺组34例,穴取C4-T1夹脊、曲池等。结果:提插组总有效率达91.9%,显著优于捻转组的58.3%(P〈0.005)和常规针刺组的76.5%(P〈0.05),而捻转组和常规针刺组临床疗效接近(P〉0.05)。结论:极泉穴配合提插手法量学操作可显著改善神经根型颈椎病引起的上肢感觉异常。
アブストラクト(日本語訳):
目的:極泉穴(脇)に対する異なった手技操作による神経根型頚椎症が引き起こす上肢の感覚異常改善の程度の観察。
方法:107例の患者をランダムに3群に分ける。提挿(針先を上下に動かす)群37例は極泉穴に提挿手技操作を行った。捻転(針先を捻って回転させる)群36例は極泉穴に捻転手技操作を行った。常規鍼刺(一般的な治療法)群34例はC4-T1(下部頚椎)の脊柱近傍、曲泉(肘関節付近)等に刺鍼を行った。
結果:提挿群の総有効率91.9%となり、捻転群の総有効率58.3%(P〈0.005)と常規鍼刺群の総有効率76.5%(P〈0.05)と比較して統計的に有意であった。また、捻転群と常規鍼刺群の臨床治療効果に統計学的有意差はみられなかった(P〉0.05)。
結論:極泉穴への提挿手技操作は神経根型頚椎症が引き起こす上肢の感覚異常を有意に改善する。
研究からわかること&臨床の実際
論文では、脇に鍼をしたグループ2つと頚に鍼をした1グループの3グループを比較しています。どの方法が一番良いのか?という検討をしている研究です。頚椎症性神経根症には脇に鍼をしたあと上下に鍼を動かしたグループの有効率が一番高かったという結果となりました。
実は、脇の下(極泉穴)には腕や手に行く神経が走っています。この神経の血流障害で痛みや感覚異常が出ている場合がほとんどです。鍼は局所血流量の改善効果があるため、神経近傍まで当たるように上下したほうが効果的であったと推測できます。実際の臨床でも、この方法はよく用いられています。
また、一般的には、極泉穴へ鍼を刺したあとに捻ったりすることはありません。理由としては、鍼先を回転させるだけでは、鍼先を神経近傍に届かせることが困難だからです。
では頚部に直接鍼をすることは間違いかどうか?という問題ですが、この研究では、頚部と脇の神経走行部位を併用しているグループはありません。しかし、一般的な臨床では、相乗効果を狙い、どちらにも鍼をします。鍼の本数を数本増やしたからといって大きな問題になることもありません。
極泉穴の使用基準
頚椎症に限らず、上肢に痺れや痛みなどの感覚異常(神経根症状など)があるかどうか?で極泉穴を使用するかどうか?の判断をします。同じ頚椎症でも痺れや痛みがなければ不使用、異なる疾患でも感覚異常が起こっていれば使用というように判断をします。
また、脳卒中による上肢の弛緩性麻痺(だらーんと力が入らない)など運動麻痺の場合にも応用されています。
さいごに
極泉穴に鍼をすると、手の指先まで響きが伝わります。人によっては「怖い」と感じる場合もあるかもしれません。しかし、治療効果は非常に高いため、感覚異常がある場合は、なるべく極泉穴を使用することが望まれます。
昨今では、多くの鍼灸師が「無痛の鍼」「浅い鍼」「心地よい鍼」のみを前面に出して、研究報告や治療効果よりも「嫌われない(ソフト過ぎる)鍼」を重要視しがちです。当然ですが、前述したとおりツボが同じでも手技操作によって効果が変わってしまうため、適切な手技操作が必要です。
受け手側は「怖いから、、、」「痛そうだから、、、」と、「効果があっても響く鍼はいやだ!」と思わず、徐々にトライをしてみることをおすすめしています。
参考文献:[1]刘艳. 极泉穴不同操作对神经根型颈椎病疗效的影响[J]. 中国针灸(06).