WHO(世界保健機構)の認める鍼灸適応疾患の現状とその誤解について。

鍼灸治療の適応範囲は非常に多岐にわたります。治療院などのホームページでよく宣伝されている「WHOの認めている41の適応疾患」などもその範疇に入ります。鍼灸治療の利点としては、投薬、外科的処置、他徒手療法と併用可能という点が挙げられます。しかし、現実問題として、「臨床現場において第一選択に入るか?」というとすべてがすべて「最初に鍼をしよう!」とはなりません。とくに日本では、保険医療機関(病院)受診が第一選択となります。また鍼灸治療を受ける・または受けた場合も、保険医療機関受診が望ましいといえます。

 

私の留学していた天津中医薬大学の第一付属病院では、鍼灸部門の病棟はほとんどが脳卒中後遺症の患者さんで、外来も脳卒中後遺症の患者さんが多い傾向にありました。その他に、顔面神経麻痺、小脳変性疾患、神経変性症(パーキンソン病や多系統萎縮症など)による運動不利、認知症(脳血管性、アルツハイマー型、前頭側頭型、レビー小体型)、頭痛、めまい、耳鳴りなどや頚椎症、腰椎症、坐骨神経痛、肩関節周囲炎(五十肩)などの疾患が多い印象でした。運動器系統・神経系統への鍼灸治療がメインであるといえます。診療科でいえば、整形外科・神経内科(疼痛科も)に該当するのではないでしょうか?

 

鍼灸治療は、深部(神経や筋肉)を直接刺激できるといった特徴があります。例えば、坐骨神経などへの神経幹刺激(坐骨神経痛や片麻痺に適応)が有名です。表面からの徒手による刺激や、通電刺激はなかなか深部まで届きません。鍼灸鍼は非常に細いため、神経損傷を起こすことはありません。神経幹刺激によって、「運動機能が改善することや、即座に痛みが取れること」も珍しくありません。そのほかに、脳卒中後遺症などの疾患は「時間的制約(一般的には発症後半年以内が著効しやすい)」があるため、短期集中治療の一環において鍼灸治療の需要が高いといえます。もちろん「現代的医療(投薬+リハビリ)」との併用も可能です。相乗効果も望めます。また、退行性・進行性の疾患(パーキンソン病や認知症など)では、出来る限り症状改善・進行抑制を希望する場合が多いため、鍼灸治療の併用を望まれる方が多い印象です。そのほかに、痺れなどの痛みは、生活の質を著しく低下させるため、鍼灸治療併用を望む方が多い印象です。

 

一度、鍼灸科の主任医師に「なぜ内科領域の患者さんが少ないのか?」と質問をした事があります。答えとしては「漢方や西洋薬のほうが効きやすいのだから、わざわざ鍼灸治療を目的に来る人はいない。」ということです。代表的なものが感冒です。「鍼ではなく、漢方であれば解表薬、西洋薬であれば解熱鎮痛剤を飲むべきだ。」と言った具合です。

 

痩身などの美容鍼灸も一部行われていましたが、単純な鍼灸治療というよりも埋線療法(溶解する糸を専用の注射器で体内に注入する方法)を用いる場合が多い印象でした。理由として、痩身の鍼灸治療は原則毎日来院(第一付属病での鍼灸治療は原則毎日通院)が必要なため、2週間に一度の埋線療法を選択する患者さんが必然的に多くなるといったところでした。内科領域の胃痛や月経不順で鍼灸科に来院されている患者さんは少ない印象です。付属病院では婦人科(不妊外来含む)などでも漢方処方や鍼灸治療も行っているため、そちらで総合的な治療介入を受けているせいもあるかもしれません。

 

そのほかに、日本では脱落(治療継続できず、来院しなくなる)しやすい傾向にある疾患があります。中国の臨床現場でよく遭遇する「耳鳴り・難聴」です。とくに、「患者さんの年齢が高い場合」「陳旧性の場合」などは、治療継続の面において困難が多いです。理由としては、「改善しても年数が掛かること」「症状が固定されている場合は、効果を実感しづらい」「耳鳴り・難聴に慣れれば生活が継続できる」「歳なのであきらめる」「日本での鍼灸治療は原則自費なため」などです。「耳鳴り・難聴」の患者さんは総じて受診動機は強く、初診時は治療意欲が高い傾向にありますが、上記の問題が起きるため、脱落しやすいといえます。まれに高血圧性の耳鳴りの方が来られますが、その場合は、内科受診にて投薬によるコントロールが最優先となります。また、鍼灸治療では反射による一時的な血圧低下は望めますが、持続的な効果はなかなか難しいといえます。

 

WHOが認めたからといって、すべてにおいて鍼灸治療が選択されるわけではありません。また、WHOが認めらからと言って、すべての治療院で認定疾患の治療が出来るわけでもありません。「WHO認定=第一選択」「なんでもかんでも鍼灸治療するべき(※経済的に余裕があれば可)」というのは誤解です。

 

以上のことから、罹患した疾患に「時間的制約」がある場合は、鍼灸治療を強くおすすめします。とくに身体的な後遺症が残る可能性がある場合は、一度鍼灸治療を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか?

 

日本では、医療機関(鍼灸治療院含む)の広告は厳しく規制されています。もし、鍼灸治療に興味をもたれた場合は、鍼灸院のホームページ閲覧や、電話またはメール、出来れば訪問にて直接コンタクトを取ることをおすすめします。

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