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  • 執筆者の写真三焦はり院

中国で脳卒中への鍼施術を初めてみた時の感想。留学への思い。

脳卒中への鍼

鍼灸の大学や専門学校では、施術所(鍼灸の臨床センター)が併設されていることが多く、在学時に各担当教員について実際の臨床現場を学びます。私の在学していた大学で経験した症例は、ほとんどが腰、肩、首、膝の痛みといった整形外科疾患が多く、脳卒中後遺症の片麻痺や嚥下障害は見ませんでした。実際、初めてみたのは、大学三年生(か四年生)の時に参加した中国天津(北京も)での短期研修(一週間程度)の時でした。


中国天津には、中国最大の鍼灸臨床センター(16階建て)があり、世界各国、日本からも研修団や留学生が訪れています。当時は、新病院はまだ建設途中で、旧病院(北院)での研修でした。天津中医薬大学第一付属病院の入院病棟と外来部での見学、そして、保康病院での漢方見学をしました。


同病院は、石学敏院士の開発した「醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)」が有名で、患者さんのほとんどが脳卒中の患者さんでした。2009年の記事では、一日2000人以上来院されるそうで、中国国内鍼灸科の40%にあたる病床数を保有しています。



目の前で片麻痺患者さんの手が挙がった!

醒脳開竅法は、脳機能改善(血流改善、炎症抑制など)と局所改善(運動機能改善など)を目的とした鍼処方です。腕が挙がらない場合は、脇の下(極泉)というツボを使い、指先まで刺激が伝わるように鍼を操作します。急性期にはこれを三回行ないます。


ちょうど入院病棟で見学をしている時に、中医師の先生が片麻痺の患者さんの検査をしているところに出くわしました。腕が挙がらず、ベッドの上においた状態では少しだけ関節運動が行なえる状態でしたが、このあと、この極泉に鍼をすると、自力で腕を上げられるようになり、患者さんや同伴されていたご家族の方も非常に驚いていました。なかでも患者さんは涙を流しながら「先生ありがとう、ありがとう、、、」と述べられていました。


このエピソードは帰国後も胸に残り、卒後に天津への留学を決める理由の一つとなりました。また、同様のエピソードは留学中も経験し、改めて鍼は患者さんの助けになるという思いが強くなりました。


参考動画:

Xing Nao Kai Qiao Therapy- Upper Extremity(上肢への鍼)


さいごに

醒脳開竅法は急性期より鍼を行なったほうが、効果的であることが研究(石学敏2005)でも報告されています。有効率は98%を超えていますが、これには急性期からの鍼による介入も含まれています。


醒脳開竅法は効果的ですが、残念ながら、日本においては急性期(発症数時間から)から鍼を受けるという方や、急性期でも鍼を毎日受けるという方はほぼいません。ほとんどが、退院後に運動麻痺や痛みなどの症状に悩み、在宅医療と並行しながらの「+α」を求めて鍼施術を検討します。


一人でも多くの方に鍼を知っていただき、鍼施術で少しでも症状が改善されること、少しでも健康に近づくことを願いながら、日々臨床を行なっています。


参考文献:

[1]石学敏. "醒脑开窍"针刺法治疗中风病9005例临床研究[J]. 中医药导报, 2005, 11(1):3-5.

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