top of page
  • 執筆者の写真三焦はり院

中村ら(2017)による認知症に対する鍼施術の研究報告を読んで



Gold-QPD鍼灸師22名による56名の患者に対する三焦鍼法

中村ら(2017)の認知症に対する鍼施術の研究報告を紹介いたします。あわせて鍼灸師の目線から考えを述べていきます。※抜粋また要約


方法:

対象:56名

  • アルツハイマー型認知症(AD)18名

  • 血管性認知症(VaD)12名

  • 物忘れが気になる生活習慣病(LS-D)26名

目的:12回施術を受けたあとの効果(原則週1回、3か月連続)

経穴:三焦鍼法(外関・血海・足三里・気海・中脘・膻中)

鍼:セイリン社 0.2mm×50mm

評価:認知機能と日常生活能、心身の所見の前後比較

  • MMSE:認知機能評価テスト

  • N-ADL:日常生活動作能力評価尺度

  • 身体面およびメンタル面における所見

結果:

1)MMSEの変化

  • 全体ではMMSEが改善

  • AD群では有意差なし

  • VaD群とLS-D群では改善

  • 要介護度2以下では改善

  • 要介護度3以上では有意差なし

2)N-ADLの変化

  • 全体ではN-ADL改善

  • 疾患別では有意差なし

  • 介護度別では有意差なし

3)相関

  • 年齢・MMSE・N-ADLでは相関なし

  • 介護度とMMSEに負の相関

  • 介護度とN-ADLに負の相関

4)身体面とメンタル面

  • 痛みの緩和や歩行や姿勢、動きの改善

  • 対人コミュニケーションや心理面の改善



考察:

  • ADの確定診断がついてから、あるいは身の回りの世話ができず、要介護3以上に進んだ患者では、週1回12回の鍼治療ではMMSEの有意な向上は難しい

  • 認知症患者の周辺症状の改善と患者のQOL改善に寄与する可能性がある


結論:

  • 物忘れが気になる頃から、あるいは介護レベルの低いうちに鍼治療を行うことが認知機能低下を抑制し、認知症発症の予防になる可能性がある


いち鍼灸師の目線から

未病の段階からケアを行うことは非常に重要です。これは認知症ケアにも当てはまります。「悪くなってからケアを始めればよい。」という考えの方もいらっしゃいますが、悪化してからの負担は想像よりも大変なことが多い印象です。


認知症の約半数はアルツハイマー型認知症(AD)ですが、一旦ADに進行すると元に戻ることはありません。予後は緩徐に進行していくことが想定されます。そのため、前駆段階であるMCI(軽度認知障害)の段階以前からケアをすることによって認知症にさせないことが重要です。


MCIの定義

  • 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている

  • 客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる

  • 日常生活動作は正常

  • 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する

  • 認知症ではない


MCIを放置すると認知機能は徐々に落ちていき、年平均で10%の方が認知症に進展します。5年間で約半数の方が認知症(不可逆的)になる計算です。MCIの状態から元の状態に戻す(可逆的)、またはケアすることによって認知症にさせない(遅らせる)ということが重要になります。※MCI≒認知症になる確率が高い状態


中村ら(2017)の研究によると、要介護2以下は23.9→25(30点満点)、LS-Dの方は26→27.3へとMMSE(認知機能)が改善しており、早期からのほうが効果が高いことがわかります。しかし、介護度が3以上またはADの方は週1回・12回(3か月)では改善がみられませんでした。ただし、軽度・中度AD患者への週3回の鍼施術で効果があるという報告(治療薬ドネペジルより効果があった)もあるため、回数を増やすことで進行を遅らせる可能性はあります。もちろん、心身面で一定の改善がみられるため、周辺症状を抑制することは有意義だと言えます。


ただ、介護度や認知症の状態が重い場合、週3回以上の鍼施術を受けることが容易かどうか?は慎重に考えなければいけません。例えば、新しい出来事を記憶することができないため、病識がない場合が多々あります。こうなると治療を促すこともなかなか大変になります。また、早期から鍼施術を受けている場合はあまり抵抗を示さない場合が多いですが、後になってから鍼を受ける場合は、変な白衣の人に痛い(怖い)思いをさせられると無意識に嫌がってしまう場合もあります。


こういった懸念も含めて「早期からのケア」が大切です。


最後に

認知症ケアのポイントは、以下の3点です。

  • 早く気が付く

  • 治療は早期から

  • 進行させない(または進展させない)


まずは医療機関に相談することが大切です。必要に応じてMMSEなどのスクリーニングを受けるようにしましょう。MMSEはスクリーニング検査として簡単に実施することが出来ます。スコアによって認知症と診断するわけではありませんが、早期発見のために活用されている問診型のテストです。時間は10分程度となります。もちろん医療機関では健康保険の対象となります。3割負担で240円、2割負担は160円、1割負担は80円です。


MMSEカットオフ

  • 27点以下は軽度認知障害(MCI)が疑われる(感度45-60%、特異度65-90%)

  • 23点以下が認知症が疑われる(感度81%、特異度89%)

※30点満点


感度と特異度

  • 感度:病気がある群での検査の陽性率(真陽性率)

  • 特異度:病気が無い群での検査の陰性率(真陰性率)

※感度が⾮常に⾼い検査は「見落とし」が少ない。そのため、23点以下の場合、認知症である場合が高いことがわかります。


参考:

[1]一般社団法人老人病研究会. 特集・GOLD-QPD 三焦る鍼法の最新潮流: 46-49

[2]Nakamura Masamichi, et al. Effects of acupuncture on dementia A case series with a novel Sanjiao Acupuncture method. Japanese Acupuncture and Moxibustion; 2017; Vol.13(1): 9-1

[3]Jia Y, et al. Acupuncture for patients with mild to moderate Alzheimer's disease: a randomized controlled trail. BMC Complement Altern Med; 2017; 17(1): 556

最新記事

すべて表示

局所における鍼の持続効果の話

著者は、「鍼の持続効果」に関して、度々質問を受けることがあります。実は、「鍼を刺すこと自体」には、数週間、数カ月と言った中長期的な作用はありません。「直接的な作用」は、刺鍼直後~数時間程度と考えます。「なんだ鍼はその程度しか効かないのか、、、」と感じる方もいるかもしれませんが、厳密には、この「直接的な作用」と「副次的に生じる持続効果」については分けて考えなくてはなりません。 例えば、局所麻酔剤を痛

ボツリヌス毒素・ミラーバイオフィードバック療法併用に関する研究の紹介

前回の記事(やっぱりミラーバイオフィードバック法は大事 (sanshou-hari.com))で「ミラーバイオフィードバック法は大切ですよ!」という話をしました。ミラーバイオフィードバック法は、鏡を見ながら顔を動かす方法ですが、単なる表情筋のトレーニングではなく、中枢(脳)での運動ネットワークの再構築を目標にしたリハビリです。 本稿では、関連する研究として、高橋(2014)による「ボツリヌス毒素・

やっぱりミラーバイオフィードバック法は大事

本稿では、顔面神経麻痺のリハビリの一つである「ミラーバイオフィードバック法」に触れていきたいと思います。 ミラーバイオフィードバック法とは、「鏡を見ながら顔を動かすリハビリの方法」です。主に、口を横に開く「イー」、口を尖らせる「ウー」、ほっぺたを膨らませる「プー」の三種目を行います。 ミラーバイオフィードバック法の目的は「病的共同運動(口を動かすと目が閉じるなど、後遺症の一つ)の予防」です。そのた

bottom of page