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  • 執筆者の写真三焦はり院

医科との併療をすると自費になるが、患者さんは損をしているか?

決して損はしていない

表題の「医科との併療をすると自費になるが、患者さんは損をしているか?」ですが、先に結論だけ述べますが、「患者さんは損をしていません」。それでは、事例を交えながら見ていきましょう。


健康保険利用と併療

健康保険利用とはいっても医療機関(病院・診療所)と施術所(はりきゅう・あんま・接骨)では取扱いが大きく異なります。医療機関では医療費、施術所では療養費と区別されています。また、療養費の場合は、「(あん摩マッサージ指圧を除いて)医科との併療ができない」とされています。もちろん併療が認められているあん摩マッサージ指圧にもルールがあり、「関節拘縮・筋麻痺(予防は除く)」が適応症となっています。


では、併療をしてしまうとどうなってしまうか?ということですが、当然ながら10割自費となってしまいます。これは、窓口で一部負担金を支払っている場合でも同様です。後日、施術所から残りの負担分(7~9割)が請求されます。そのため、施術所で健康保険利用を行う際は、併療の可能性があるか事前に確認したうえで適否を判断します。ただし、初療時点で適用可であっても、患者さんの自己判断で併療をしてしまった場合や、保険者判断によって併療とみなされる場合は「併療による不支給(全額自費)」となることがあります。


併療に該当するケース

よく散見される例をみていきましょう。


ケース1:

  • 患者さん「腰が痛いので、健康保険利用で鍼をしたい」

  • 鍼灸師「現在、病院で治療を受けていますか?リハビリは?薬は?」

  • 患者さん「薬は出てたけど、もう飲んでないから大丈夫」

  • (お薬手帳を確認すると数日前から二か月分の薬と湿布がでている。)

  • 鍼灸師「二か月分薬が出ているので、残念ながら健康保険利用はできません。」

  • 患者さん「薬やめててもだめですか?」

  • 鍼灸師「処方期間が終わるまで健康保険利用できません。」


ケース2:

  • 患者さん「首肩が痛いので、健康保険利用で鍼をしたい」

  • 鍼灸師「現在、病院で治療を受けていますか?リハビリは?薬は?」

  • 患者さん「薬は昨日までで終わり。リハビリは最近まで行ってたけど、、、」

  • 鍼灸師「残念ながらリハビリに通っている間は健康保険利用はできません。」

  • 患者さん「月ごとにリハビリ→鍼→リハビリ→鍼としていけば健康保険利用できますか?」

  • 鍼灸師「鍼灸の健康保険利用は、保険医による適当な手段がないものとなっています。治療が継続している場合は、併療とみなされる可能性があります。また、リハビリが適当な手段とみなされるはずです。」


ケース3

  • 患者さん「坐骨神経痛があるので、健康保険利用で鍼をしたい」

  • 鍼灸師「現在、病院で治療を受けていますか?リハビリは?薬は?」

  • 患者さん「定期的にブロック注射を受けています」

  • 鍼灸師「残念ながらブロック注射に通っている間は健康保険利用はできません。」

  • 患者さん「単回の治療だから継続していることにはならないのでは?」

  • 鍼灸師「鍼灸の健康保険利用は、保険医による適当な手段がないものとなっています。注射自体は単回でも、定期的に通っているわけですから併療とみなされる可能性があります。また、ブロック注射が適当な手段とみなされるはずです。」


※ただし、治療を行っていない傷病に関しては健康保険利用が可能です。

※そのほか、健康保険利用の条件として「医師の同意書」が必要です。


恩恵を受けている(≒損はない)から併療は認められない

併療が認められない理由は、「健康保険利用は必要最低限」ということです。要するに、「すでに必要分を利用してしまっている方は必要以上に健康保険は使えません。」ということです。ケース1~3もすでに健康保険利用の恩恵を受けているわけです。決して損をしているわけではありません。逆に際限なく保険利用を認めると、保険者のみならず被保険者にも損が生じてしまうはずです。


さいごに

鍼灸院を訪れる方の大半は、「併療したほうが治療成績がよいのでは?」「薬やリハビリではあまり治療成績がよくなかった、他に何かないか?」といった受療動機があります。医療機関にいかずに「まずは鍼灸で!」という方はあまり多くありません(原則、医療機関受診をすすめます)。患者さんご自身が鍼灸に対して必要性を感じている状況で、「併療に該当するため自費」となってしまったとき、もう一度現在の状況を冷静に考えてみて下さい。そのあとで「今まで通り医療機関での治療を継続するか」「健康保険利用のため鍼灸に切り替えるか」「自費でもよいから併療するか」を選択して下さい。そして、「健康も財産」であることも忘れないようにして下さい。


補足)施術所による健康保険利用の状況

健康保険利用はすべての施術所が取り扱っているわけではありません。また、窓口一部負担金払い(受領委任)はすべての施術所が取り扱っているわけではありません(原則、償還払い:全額立替払い)。そのほか、一部健康組合は受領委任を認めていません。そのため、健康保険利用希望の場合は、事前に施術所にご相談ください。



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