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  • 執筆者の写真三焦はり院

進行性疾患は、症状をどう遅らせるかが重要。悪くなってから取り組もうは現実的ではない。

進行性疾患と鍼灸

進行性疾患は、「急激に進行していく」、「打つ手がない」といったイメージから「進行性疾患には何もすることがない」という考えを持ったり、またその逆で「症状が軽いから」「まだ進行していないから」というイメージから「症状が悪化してから対策をしよう」という方もいるようです。


進行性疾患は、名前のとおりに症状が悪化していくことはあっても、元に戻ることはありません。しかし、現代医療の観点からみると、「いかにして症状を抑えるか?」「いかにして進行を緩徐にするか?」といったことが重要と言われています。とくに日常生活の活動度(ADL)や生活の質(QOL)をいかに高く保つかがポイントです。ADLとQOLの状態を高く保つことによって、患者さん本人のみならず、ご家族の負担を軽減することが可能です。


鍼灸臨床では、神経内科領域の進行性・難治性疾患への施術をする機会が多く、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症などをみるケースが多々あります。


鍼灸師からみたパーキンソン病

パーキンソン病は、安静時の手足の震えや、体の動かしづらさ、転倒のしやすさなどの特徴があります。脳のドーパミン(神経伝達物質)が減少することによって、運動機能に障害が出ていく疾患です。その他に、便秘や不眠なども併発することがあります。とくに、足が棒のようになってしまい一歩が出ない、よくつまづいてしまう、転倒時に防御が出来ないなどの症状は、転倒による骨折なども引き起こしやすく、寝たきりや廃用性委縮など二次的な悪化を生みかねません。


病院での投薬治療や運動療法がメインとなりますが、薬の種類や量が増えることによる副作用の問題や保険医療だけでは限界を感じて鍼灸院を訪れるというケースが多いと思います。椅子から立ちあげれないであったり、足が棒のようになってしまい足が前に一歩でない、こういった状態で来られる方は少なくありません。


鍼は運動療法と同じように、早期から取り入れる方が症状抑制に効果的であると言われています。研究報告では軽度・中度に対する有効率は高いが、重度の方に対する有効率は低い傾向にあると言われています。もちろんこの傾向は鍼だけに限定された話ではありません。初期から鍼なども取り入れて症状を抑制していくことが理想です。進行を待ってから「やっぱり鍼でも、、、」ということは現実的ではありません。


実は、鍼は副作用はほとんどありません。運動療法のように気楽に受けることが可能です。また、薬物療法や運動療法を邪魔するということもありません。鍼灸師としては、薬物療法や運動療法もしっかり受けて頂いた上で、鍼療法を取り入れて相乗効果を期待することが一番だと考えています。そのため、他の治療法をやめなければ鍼をしないということは絶対にありません。


鍼による相乗効果で、薬のオンオフが緩やかになったり、体の緊張、すくみ足(足が前にでない)や小刻み歩行が鍼で少しでも改善すれば、運動療法を行う上でも、スムーズに機能維持または機能向上が望めます。


その他に、非運動性障害(排便・排尿障害や不眠、興奮など)の症状を鍼併用によって抑えることで、多剤服用などによる「飲み合わせ」や「副作用」のリスクを軽減することが可能です。


鍼灸師からみたアルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症(AD)は、加齢とともに起こりやすく、物忘れや判断力の低下などの中核症状や妄想や興奮、徘徊などの周辺症状が出てきます。また、「取り繕い反応」といって、忘れてしまったことを、相手の話に上手に合わせることや、覚えているかのように振る舞うことによって「取り繕う」ことが多々あります。この「取り繕い反応」は医療現場や介護現場ではよく知られていますが、周囲のご家族が「取り繕い」に惑わされて、適切な医療機関への受診が遅れてしまうことがあります。


「そんな取り繕いには騙されないよ。」という方でも、「家族は健康でいてほしい。」という思いが重なると、どうしても「やっぱり大丈夫。病院なんていかなくてもいい。」という気持ちになるものです。実際は、思っていたよりもより進行しているということもあります。


相談に来られるご家族の方の中には、「悪くなってからお願いしてもいいですか?」という方もいらっしゃいます。実は、「鍼を受ける」ということはネガティブ(負)なイメージが湧きやすく、鍼を受けたことがない方は、「怖い、、、」「痛い、、、」というイメージを持ちがちです。


とくにADの患者さんは、覚えることが難しくなっていく傾向にあるため、進行してから突然鍼をもった白衣の鍼灸師を見ると、当然ですがよいイメージを持ちません。「痛い思いをするんじゃないか。。。」というイメージから「施術拒否」が起こりやすいと言えます。


そうなる前に、「覚えていてもらう」ことが重要となります。施術者(鍼灸師)の名前や顔を忘れても、「鍼は体によい。」「気持ちがスッキリする」というイメージが感覚的にでも残っていれば、抵抗なく受けいれてくれる方が多い印象です。


症状抑制、進行のコントロール、そして「受療のしやすさ」の観点からも「悪くなってから」よりも「わかった時点から」取り組むことが理想です。


最後に

残念ながら、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症と診断を受けた時点で、すでに「だいたいの予後」は決まっています。進行性疾患は、治ることはありません。しかし、症状を抑制し、進行が緩徐になれば、穏やかな時間を最後まで続けることが可能かもしれません。


最初は、小さい震えや物忘れから始まるかもしれません。こういった「軽い症状だけしかないから大丈夫」とは思わずに、「軽い症状のうちからコントロールしよう」という考えが重要です。


鍼施術に興味のある方はぜひご相談下さい。

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