拘縮と痙縮は非常に似ていますが、病態は大きく異なります。痙縮といえば、脳卒中後遺症の回復過程に見られるマン・ウェルニッケ肢位を思い浮かべる方も多いと思います。痙縮とは、筋緊張が異常に亢進した状態で、いわゆる「つっぱり」や「ひきつり」です。特徴としては、他動的に速い速度で関節運動を行うと抵抗が強くなり、ゆっくりとした速度で関節運動を行うと抵抗は弱くなります。完全には「固まっていない状態」とも言えますが、痙縮が長く続いたり、適切なケアを行わないと拘縮に移行していきます。
マン・ウェルニッケ肢位:
強い痙性のため、上肢はラグビーボールを抱えたような恰好、下肢はバレリーナの足のように伸びた恰好を保持している状態。
拘縮とは、軟部組織の短縮(線維化)によって関節可動域制限が起こっている状態で、いわゆる「固まってしまっている状態」です。固まってしまった関節は、関節運動機能を失うため日常生活動作に影響を与えます。また、動作時痛や安静時痛など痛みの原因ともなります。もちろん関節可動域訓練によって改善がみられる場合もありますが、大きな改善が見られない場合が多い印象です。そのため、拘縮を起こさないことが大切です。
関節可動域をフルレンジで一日に一度5回動かすだけで関節可動域は保たれると言われています。しかし、自宅療養移行後のご自宅でのケアは自主性が求められるため、十分なケアが行われていない場合もあり環境的に拘縮が生じてしまうこともあります。よく、脳卒中発症後180日を過ぎると症状が固定されると言われていますが、回復の曲線が平坦化するという意味が強く、拘縮や筋萎縮などの二次的な問題が生じないというわけではありません。
鍼治療において、痙縮と関節拘縮では病態が異なるため、同じ鍼の方法を用いても後者では効果が限定されます。一般的に、鍼は機能回復に寄与すると言われています。仮に神経が促通されて筋出力自体が正常であっても、軟部組織が器質的に線維化している場合(拘縮)は、絡まってしまっている線維を物理的に剥がす以外に方法はありません。同様に、筋萎縮が高度で関節運動自体が行えないような場合も、機能的な問題を超えてしまっているため効果が限定されます。こういった症例は陳旧例に多く、質の高い複合的な治療介入を行わなければなかなか改善はみられません。
たしかに、本場中国天津においては鍼治療の治療成績が高く、中国全土から患者さんは来ており、外来だけでも一日2,000人を超える方が通院されています。後遺症期以降の患者さんもいますが、病棟→外来の流れをくんでおり、急性期→回復期→後遺症期と鍼治療を受けることが出来るシステムとなっているため、鍼療法受療者のほとんどが後遺症期(または陳旧例)という日本とは分けて考えなければいけません。
神経可塑性(他の脳領域が再学習を行う)や、後遺症残存リスクなどを考慮しなるべく早期からの鍼治療導入をおすすめしています。よくリハビリと比較されがちですが、全くの別の治療体系・目的体系ですので、相乗効果の面からも単独ではなく+αとして組み合わせることをおすすめしています。
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解説:手指痙縮に対する鍼(醒脳開竅法)