顔面神経麻痺

<​病気のこと>

 
顔面神経麻痺.png

顔面神経麻痺とは?

1)発症原因

ベル麻痺がもっとも多く、次いでラムゼイハント症候群(以下、ハント症候群)が多い。顔面神経(第7脳神経)がウィルスにより炎症をおこすことが原因と言われています。ベル麻痺は、単純ヘルペスウイルスtype 1 (HSV-1)ラムゼイハント症候群は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)の感染が原因と言われています。感染および潜伏の後、ストレスや寒冷暴露などの誘発因子によって発症します。

2)特徴的な症状

① 表情筋麻痺:顔の筋肉が動かせない、目が閉じれない、眉尻や口角が垂れる

② 舌の感覚障害:味がわからない

③ 兎眼(とがん):目が閉じれないことによる乾燥

④ 額のしわ消失:額がうごかせないため、しわができない

⑤ 耳周囲の痛み:主に耳の後ろ側が痛む

⑥ 耳の症状:きこえにくい、音がひびく、めまい

⑦ 帯状疱疹:耳周囲や首回りなど

3)特徴

一般的に、片側のみに発症。脳卒中に伴う顔面神経麻痺と違い、額のしわが消失します。ベル麻痺よりも脳卒中に伴う顔面神経麻痺の方がより軽症にみえるため、注意が必要です。また、両側性の場合は、脳卒中やギランバレー症候群などの他の病気が疑われます。

4)予後

ベル麻痺では、自然治癒が70%、適切な治療を受けた場合で90%の方が回復(回復しやすい)すると言わています。また、ハント症候群では、自然治癒が30%、適切な治療を受けた場合でも60%程度の方しか回復しない(回復しづらい)と言われています。関与するウィルスの種類によって予後が異なるため、注意が必要です。

 

5)後遺症

① 顔面けいれん:顔の筋肉が小刻みにピクピクなる

② 表情筋の拘縮:顔のひきつり、ひょっとこ顔(患側へ引っ張られる)

③ 表情筋の萎縮:顔のひきつり、ひょっとこ顔(患側へ引っ張られる)

④ 病的共同運動:神経の混線による異常な動き(目と口が一緒に閉じる)

顔面神経麻痺の経過や段階

1)急性期(数日)

急激に顔の麻痺が起き、症状が重くなる。

2)回復期(~半年)

じょじょに回復してくる時期

2)後遺症期(半年~)

一般的に、半年以上回復がみられない場合は、後遺症が残る場合があります。

顔面神経麻痺のケア

1)薬物療法

急性期でのステロイドおよび抗ウィルス剤の投与、ボツリヌス注射

2)運動療法

ミラーバイオフィードバック

3)物理療法

、マッサージ

4)形成外科手術

 

顔面神経麻痺

<当院の施術内容>

当院で​使用しているツボ

1)主に使用するツボ:

1)経筋排刺法:関連する経筋上に鍼を刺していきます。

2)合谷(ごうこく):手のツボ。対側の顔の症状

3)翳風(えいふう):耳のつぼ。同側の顔面神経麻痺

2)禁忌(当院ではやりません):

通電:神経の混線を起こす可能性が高まるため行っていません

​「血流改善および神経回復促進」による症状改善

鍼のメカニズム

1)急性期~回復期:局所循環改善および神経回復促進など

鍼による刺激で局所循環改善を行います。血流改善によって、神経の腫れやむくみの解消、筋肉や神経が栄養されるようになります。

​2)後遺症期:筋緊張緩和など

麻痺が高度であると使われてていない筋肉自体に強張りが生じ、拘縮が起きやすくなります。血流改善によって、強張りや引きつりの改善が期待できます。​

研究動向

1)難治性のBell麻痺およびHunt症候群に対する鍼治療効果の検討

ENoG(誘発筋電図検査)最低値0%でかつNET(神経興奮性検査)スケールアウトであった29例(Bell麻痺14例,Hunt症候群15例)に対して鍼治療を行い、効果判定には麻痺スコアと西本・村田らの考案した後遺症評価法の変法による後遺症スコアを用いた。発症6カ月以内に麻痺スコアが36点以上となり,明らかな後遺症を認めないものを完全治癒,それ以外のものを不完全治癒として評価した結果,完全治癒は5例(17.2%),不完全治癒は24例(82.8%)であった。ENoG最低値0%の場合,発症6カ月以内の治癒は見込めないとされており,結果からは鍼治療の有効性が示唆された。(要旨より抜粋)

参考文献:蛯子 慶三, 丹波 さ織, 吉川 信, et al. 難治性のBell麻痺およびHunt症候群に対する鍼治療効果の検討[J]. 日本東洋医学雑誌-, 2009. 60(3)

 

顔面神経麻痺

<当院の取り組み>

顔面神経麻痺の考え方

1)まずは早期受診、早期から標準治療

まずは医療機関の早期受診早期からの標準治療(ステロイドや抗ウィルス剤の投与)をすすめています。神経のダメージは時間の経過とともに症状が重くなる傾向にあります。そのため、出来るだけ早く神経のむくみや腫れを取る必要があります。また、抗ウィルス剤の投与によってウィルスの増殖を弱める必要があります。

2)鍼は医療機関受診後から

原則、鍼施術を先に行うことはしていません。理由としては、鍼灸院では診断が行えないこと、また、顔面神経麻痺は単なる症状の一つであって、原因を鑑別する必要があります。軽い麻痺にみえても、実は脳卒中だった、ギランバレー症候群(呼吸困難や四肢麻痺を伴う)だったということも考えられるため注意が必要です。

3)早期のステロイド投与を

ステロイド投与が最も優先される治療方法(グレードA)です。可能であれば、早期から治療を受けて下さい。

4)ENoG検査による予後判定のお願い

誘発筋電図検査(ENoG検査)は患側の軸索変性に陥っていない顔面神経線 維の割合を表すため、予後判定が可能です。予後判定は今後の指標となるため絶対に受けて下さい。発症から10日~14日の間に行われた判定が一番信頼性が高く、時間が経過してしまった後には予後判定が行えません。なお、主観評価である柳原法(表情をみて判断する方法)では、現在の状況しか判定できません。また、検者によって点数に差が生じることもあり、ENoG検査が推奨されます。

5)予後判定と後遺症

一般的には以下の通りと言われていますが、個人差や環境因子によっても予後は変わると考えられるため、適切なケアが望ましいと言えます。ENoG値が40%以下では神経断裂 が加わっている可能性が高いことから後遺症発症に注意が必要です。

① ENoG 値が40%以上あれば,麻痺は後遺症なく1カ月以内に治癒する

② 20%以上40%未満であれば,2カ月以内に治癒するが,わずかに後遺症が生ずる可能性がある

③ 10%以上20%未満であれば,4カ月以 内に治癒するが,後遺症の可能性が高まる

④ 10%未満で あれば,半数は治癒せず,治癒しても6カ月以上要し, 後遺症が高率に生ずる

⑤ 0%であれば治癒は望めない

参考文献:

[1]小池吉郎, 戸島 均 : 顔面神経麻 痺の検査. JOHNS 1991 ; 7 : 1547―1558.

[2]稲村博雄 : 病的共同運動の電気生理学的検査. Facial N Res Jpn 1998 ; 18 : 11―13.

[3]萩森伸一 : 顔面神経麻痺に対する電気生理学的検査. 日本耳鼻咽喉科学会会報 2017 ; 120(10) : 1266-1267,

6)絶対に電気は流さない

​以前は、通電した方が回復が早いと言われており、積極的に使用されていた時期があります。最新の知見では、むしろ過度に神経回復を促進させた方が後遺症の発症を高めるということがわかっており、禁忌とされています。重要なことは、後遺症を残さず本来の期待できる効果をあげることだと言われています。回復をしたけれども高度な後遺症が出現しまったということをなるべく起こさないことを心掛けています。

鍼のメリット

1)副作用がない

鍼療法には副作用がほとんどありません。薬物療法や物理療法との相性もよく、相乗効果が望めます

2)新しいアプローチ

新しいアプローチを加えることによって症状改善の可能性が高まります。後遺症期においても、鍼施術後から回復が見られ始めるということが多々あります。

顔面神経麻痺ケアのポイント

1)症状は麻痺から後遺症まで多岐にわたる

​顔面神経麻痺というと筋肉が弛緩するイメージが強いですが、3~4カ月経ってから後遺症が出現していきます。病的共同運動や表情筋の拘縮が主な後遺症です。誘発筋電図検査(ENoG)での予後判定結果が著しくない場合は、日頃のセルフケアなど後遺症に備えた行動が求められます。短期間での回復が難しい場合は、最低一年間はケアを行う必要があります。

2)後遺症はある程度予防できる

適切なセルフケアによって後遺症はある程度予防が可能です。治療を受けるだけではなく、セルフケアとして日々の適切なマッサージ、ストレッチやトレーニングが必要不可欠です。正しいセルフケアを行う上で、リハビリの先生から適切な指導を受けて下さい

3)病的共同運動に有効な治療手段はほとんどない

​一旦、病的共同運動が起きてしまうと、有効な手段はほとんどありません。対症療法としてボツリヌス注射が有効と言われていますが持続効果は限局的です。そのため、なるべく病的共同運動を起こさないことが大切です。「忙しいから、、、」「ついつい忘れてしまった、、、」とならないように、マッサージなどのセルフケアを習慣化する以外に方法はありません。後遺症は、審美性はもとよりQOLやADLを著しく低下させます。「思ったよりも大変だ、、、」「もっとしっかりケアしておけば、、、」とならないようにすることが大切です。

 

4)頑張りすぎない

中には、焦りからマッサージやトレーニングをがんばってしまう方がいます。無理な力を入れすぎる(粗大な運動)と、神経は間違った神経回路が形成されてしまい(過誤支配)、病的共同運動が出やすくなります。初期のころはマッサージ(5分/1回を10セット/1日、一時間に一回程度)やホットパックを行い、粗大な動きは控えましょう。また、表情筋を動かす際には、出来るだけ一つ一つの筋肉を正しく動かすこと、動かない場合でも無理に動かそうとせず、正しいフォームで動かすイメージを作ってください。例えば、「口角を動かす際には目を閉じない」、「目を閉じる際には口を動かさない」といった注意が必要です。鏡を使いながら顔を動かす方法もおすすめです(バイオミラーフィードバック)

5)電気は絶対流さない

こと鍼療法においては「有害事象が報告されていない」といった理由から「禁忌と見なさない風潮」や「鍼通電は通電療法とは違うという意見」もあり、未だに鍼灸院や整骨院では電気を流すところもあるようです。最新のガイドラインでは「(病的共同運動の誘発原因となるため)通電は禁忌」とされているため、電気を流す治療は絶対に受けないでください

 

顔面神経麻痺

<セルフケア>

セルフケアはどうしたらいいか?

1)蒸しタオルで温める

蒸しタオルの作り方ですが、水で濡らしたタオルをジップロックなどの耐熱袋に入れて電子レンジで温める方法が簡単です。十分に温度を確認した後、麻痺側の耳の後ろ、顔を温めるとよいでしょう。低温火傷には十分注意してください。蒸しタオルで温めることによって血流が促進され、ダメージを受けた神経や筋肉の回復が期待できます。また、後遺症期における拘縮や萎縮に対しても効果的です。急性期は一日数回行うほうがよいでしょう。

​2)ストレッチやマッサージ

こちらのサイト(リンク)を参考にしてください。回復期~後遺症期以降のセルフケアが詳しく載っていますリンクの許可を頂きましたので、ご活用下さい

 

3)参考動画(ストレッチ・マッサージ)

マッサージは早期から行うことによっての筋委縮・筋拘縮予防が期待できます。患側ストレッチは後遺症期以降の筋委縮・筋拘縮に対して有効です。また、健側(非麻痺側)も代償(使いすぎなど)により硬くなります。もし健側に表情が偏位(寄ってしまっている)をしている場合は健側のストレッチも必要です。ストレッチ下記リンク先の動画を参考にしてみて下さい。

​① マッサージ

Facial Palsy DVD 2 - Management of Synkinesis - Massage - YouTube

② 健側 / 非麻痺側ストレッチ(Strong Side)

Stretches for the Strong Side - Management of Flaccid Paralysis - Facial Palsy DVD 1 - YouTube

③ 患側 / 麻痺側ストレッチ( Tight Side )後遺症期~

Stretches for the Tight Side - Management of Synkinesis - Facial Palsy DVD 2 - YouTube
 

4)参考動画 (ウー・イー・プー体操など)

下記リンク先の2:05~を参照にしてみて下さい。

新潟大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

(リンク)顔面神経麻痺 予後評価とリハビリ編 - YouTube