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やっぱりミラーバイオフィードバック法は大事

本稿では、顔面神経麻痺のリハビリの一つである「ミラーバイオフィードバック法」に触れていきたいと思います。


ミラーバイオフィードバック法とは、「鏡を見ながら顔を動かすリハビリの方法」です。主に、口を横に開く「イー」、口を尖らせる「ウー」、ほっぺたを膨らませる「プー」の三種目を行います。


ミラーバイオフィードバック法の目的は「病的共同運動(口を動かすと目が閉じるなど、後遺症の一つ)の予防」です。そのため、ミラーバイオフィードバック法は、病的共同運動が出始める時期より前(発症3カ月頃より前)、または顔の動きがある程度出てきた頃から始めます。勘違いしやすいですが「表情筋の筋力トレーニング」ではありません。そのため、必要以上に強い力を加えたり、無理に目いっぱい動そうとする必要はありません。


実施方法は、リラックスした状態で鏡に正対し、麻痺側の可動域に合わせて、ゆっくりと優しい口の運動を行います。この際、目は閉じないように意識します(瞬きもしない)。麻痺側の可動域が「筋収縮程度であれば筋収縮程度」、「数ミリであれば数ミリ」、「数センチであれば数センチ」とし、左右対称性を維持したまま運動を行います。①無理のない範囲で動作を行い、②形を作ったまま数秒間動きを止め、③またリラックスした状態に戻します。この一連の過程(①~③)を反復することで、「正しい顔の動き」を再学習(運動ネットワークが再構築される)していきます。


ミラーバイオフィードバック法では、可動域を麻痺側に合わせるため、左右差がある場合は、完全な「イー、ウー、プー」の形を作ることは出来ません。ただし、出来なくて当然ですので、気にする必要はありません(左右対称性を保てばOK)。もし、左右対称性を無視し、非麻痺側(対側、健側)の可動域に合わせた強度の高い運動を行ってしまった場合は、「顔が曲がったり(表情の偏位)」、「神経の迷入・混線’(病的共同運動の原因)や学習性不使用(麻痺側の使い方を忘れていく)」を助長してしまいます。


中等度以上(ENoG検査で40%を超えない)では、回復過程において、下眼瞼の痙攣などが出てくることがあります。ミラーバイオフィードバック法の実施中に、下眼瞼の痙攣などが誘発される場合は、下眼瞼の痙攣が起きない程度まで可動域を狭め、力加減を弱めます。口を動かす際に生じる下眼瞼の痙攣は、「病的共同運動の兆候」です。兆候出現後も、適切に実施すれば軽減・消失の可能性がありますが、下眼瞼の痙攣が起きたまま「不適切なミラーバイオフィードバック法」を継続すると、病的共同運動は固定・残存・増悪していきます。方法を間違えると「頑張れば頑張るだけ悪化してしまう」と言われています。


人によっては、「病的共同運動の増悪因子となる可能性が少しでもあれば、ミラーバイオフィードバック法はやらないほうがいいのではないか?」と考えるかもしれません。しかし、ミラーバイオフィードバック法を実施しない場合は、「本来予防できた可能性が高い病的共同運動の対策を諦める」ことになります。そのため、ミラーバイオフィードバック法が悪いのではなく、「不適切なミラーバイオフィードバック法をしてはいけない(そもそも不適切な場合はミラーバイオフィードバック法とは言えない≒単なる筋力トレーニング)」というのが正解です。


ミラーバイオフィードバック法は、「(セルフケアとして)毎日朝晩15分ずつ実施するとよい」とされていますが、細かい作業を要することも含めて、多くの方は煩雑さを感じると思います。そのため、「他に簡便な方法はないか?」と考えがちですが、現時点で、他に良い方法はありません。病的共同運動の予防・軽減において「ミラーバイオフィードバック法」の継続実施が非常に重要です。


そのほか、「ボトックス注射をすれば病的共同運動がとれる=治癒する」であったり、「ボトックス注射で病的共同運動を抑えれば、ミラーバイオフィードバック法などのセルフケアは必要なくなる」と考える方もいるかもしれません。しかし、病的共同運動を抑えるためにボトックス注射をしても、多くの場合はミラーバイオフィードバック法の併用が推奨されます。どちらかと言えば、「強制的に症状を抑制し、ミラーバイオフィードバック法を効率よく実施する」という考えに基づきます。また、ボトックス注射は「永続的な効果を保証するものではない」ため、定期的に受ける必要があると言われています。


最後にもう一度言いますが、後遺症リスクのある中等度以上では、ミラーバイオフィードバック法を正しい手順・方法で行って下さい。そして、治療継続の意思がある場合(何とかしたいのであれば)は、適切な時期から、発症後一年間は継続的に実施して下さい。


いくら初動がよくても回復過程のケアが不十分ですと、後遺症のリスクが高まります。そして、一旦後遺症が高度に完成すると、想像よりも難治化します。とくに、「ミラーバイオフィードバック法の指導が不十分」、「知らず知らずのうちにケアが自己流化」、「そもそも放置」、「禁忌と言われている通電を行った」等の症例では、より高度な後遺症が残存することがあり注意が必要です。


◆主なセルフケアの方法・目的:

  • ホットパックによる局所循環改善

  • マッサージ・ストレッチによる拘縮予防

  • ミラーバイオフィードバック法による病的共同運動予防


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