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  • 執筆者の写真三焦はり院

なぜ「絶対に治るので大丈夫です」と言えないのか?

私は「絶対に治します。」「絶対に治ります。」「すぐ治ります。」とは明言していません。中には、「よくない鍼灸師(施術者)だ」と感じる方もいるかもしれません。


よく「同じ病気で悩んでいる患者さんは来られますか?」という質問をされます。病気だけで一括りにすると「はい。来ます。」と答えが出やすいですが、患者さんが本当に聞きたい答えは「来るか?来ないか?」といった簡単なものではなく、「その方はどういった経過を辿ったか?」「どの程度で治るか?」といった意味が含まれています。また、「すぐ治る」「絶対に治る」という答えを期待している場合がほとんどだと思います。たしかに同じ病気でも「すぐに治る」方もいますが、それ以外の経過を辿る方もいるため、「絶対に治るので大丈夫です。」とはなかなか明言出来ません。


実は、患者さんの状態は千差万別で、全員が全員同じ状態ということはほとんどありません。年齢、基礎疾患の有無、初動、治療内容、症状・障害の重さ、ご自身のケアの程度、体重、生活習慣、労働環境等でも大きく変わってきます。また、症状だけで『同じ』とは言えず、原因によっても予後は大きく変わります。これが、いわゆる個人差と言われるものです。


科学的根拠(研究論文)が指し示すデータは「集団に対する研究」のため、いくら効果があるとされていても、個々でみればバラつきがあるわけです。また、目の前にいる患者さんのデータは現在進行形でしか取得することができず、施術者も含めて「治るかどうか」はわかりません。中には、「治る絶対の保証がないものは悪だ、施術者に自信がないからだ。」と考える方もいらっしゃいますが、「絶対治りますよ。」と明言するのは論理的に非科学的であったり、ポジショントーク(いわゆる営業トーク)の可能性があるため注意が必要です。


鍼灸師として、とくに重要であると感じているのは、『標準的な施術』を心掛けるということです。標準的というと、「たいしたことがない」という意味に捉える方がいらっしゃいますが、本来の意味に最も近いのは、『最適な(≠完璧)』という言葉だと思います。そのため、「絶対に治りますよ。」とは言えない代わりに、「(こうした方が良いですよ。(またはこれはしない方がいいですよ)」というアドバイスをしています。なるべく偏らないように研究論文やガイドラインに沿うように心掛けています。


そのほか、「この病気ではこういった経過を辿る可能性が高いですよ。」「こういう症状が出るかもしれないので注意してください。」と言った話もします。時には、耳障りの良くないことも伝えすることもありますが、なるべく事実を伝えることが大切であると考えています。


  • 科学的根拠からはわかるもの:

  1. データから予後予測を行うことで戦略的な治療が可能となる

  2. 未治療より差がある(効果あり)とされる場合は「治療は妥当」と考える

  3. 治療頻度、安全性、効果が出るまでの期間なども研究によってわかる


施術者は「いかに標準的な施術を遂行するか」、患者さんは「いかに標準的な施術を受けるか、そしてセルフケアが必要なところはご自身でいかに遂行するか」、これが最も大切なポイントです。これ以外に方法はなく、これ以外は全て自然の流れに身を任せること(いわゆる神頼み)にしかなりません。


もちろん、様々な考えがあるため患者さん個々によって目標は違うと思います。「やれることは何でもやって出来る限り治りたい」という方もいれば、「1回試してみてダメなら鍼は諦める」という方もいます。ただ、あまりに科学的ではない行動・選択はおすすめしていません。例えば「平均して週2回20回継続加療をして良い結果が得られる。」といったデータがある場合、「1回で治りたい」「月1回の通院で治したい」という考えは論拠からあまりにも飛躍していると言えます。


「治るかどうか?」といった疑問を持つことは当然と言えます。不安にならない方はいないはずです。悩んだ時には、直接質問を投げかけてみて下さい。ただ、「絶対に治りますよ。」という答えが聞けるかどうか?だけで施術者を判断することはあまりおすすめしていません。正しい情報を与えてくれるかどうか、、、偏った施術をしていないかどうか、、、どういった戦略をたてているか、、、こういったポイントが鍼灸師選びにおいて重要であると考えます。


当院では、なるべく患者さんの意見を尊重するようにしています。もちろん、「施術を受けない。」という選択も尊重しています。来院したからと言って「絶対に鍼を受けさせる」ということはありません。


参考になれば幸いです。

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