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  • 執筆者の写真三焦はり院

よくある治療効果に関する誤解とその考え方。患者さん個人に効くかどうかは治療してみないとわからない。

よくある「効果のあるなし」の誤解

鍼を受ける上で気になる「効果があるのか無いのか?」の疑問について答えていきます。というのも、「効果があるない」という質問はよく聞かれますが、「効果のあるなし」をどのように決めているのか?実際によくわかっている方はあまり多くありません。そのため、患者さんは「果たして自分自身に効くのかどうか?」の質問に終始しがちですが、治療や施術を始めていない段階で「質問している患者Aさんに効果があるのかどうか?」は誰にもわかりません。なぜなら、現時点でAさんに対する治療や施術は科学的検証は行われていないからです。これは鍼灸だけに限った話ではありません。


そのため、こういった質問に出くわした際に、医療者側は「○○というデータがあるので、試してみる価値はあるでしょう」という答え方しか出来ません。鍼灸に限らず、現代科学には限界があるのです。確実に治る方法や治る確証は存在しません。


よく目にする科学的根拠は、統計学を用いて判定されます。今回は統計学についても少し触れていきます。


統計学とは?

まずは、、、統計学ですが、「統計」とは違います。統計学は、一歩進んで、統計(集まったデータ)の性質を調べる学問と言えます。


例えば、1という数字が大きいか小さいか?多くの人は小さいと答えると思います。しかし、1は1であって、大きいか小さいかは比較をして見ないとわかりません。0.1からすれば1は大きい数字であるし、10からみれば小さい数字であることがわかります。


では、大きいグループ(複数の数字が混在する)同士を比較した場合はどうでしょうか?


例えば、Aクラスの生徒10人とBクラスの生徒10人をみてどちらのクラスの生徒の身長が高いか?ということは見た目ではなかなかわかりません。「Aクラスには高身長の太郎君がいるから、Aクラスに決まってるよ!」という見方は本当に正しいのでしょうか?


こういった統計から生まれた疑問に答える統計学が存在しています。


医療分野では?

ポピュラーな研究は、「治療(または施術)をしたグループ」と「治療(または施術)をしていないグループ」に分けて、一定期間を経過した後の結果を比べるというものです。


実際に比べてみて、二つのグループの性質が違った場合に、「統計学的有意差あり(統計学の方法で調べたら二つはちがっていたよ!)」と判定をします。慣例的に「一致する確立(P値)は1/20未満(0.05)を差あり」とします。P値が0.05より大きい場合は「差が無い(≠同じ)」として「効果が無いんだなー。。。」という見方をします。


「えっ!それだけ?」と思う方もいるかもしれませんが、これが最新の研究方法です。


20%しかスコア下がらないのに効果がある?

有意差があるかないか?が「判定の基準」ですが、「じゃあスコアはどうなのか?」という疑問もあるはずです。


では、以下のふたつはどうでしょうか?

  1. 「有意差はなし。A病に薬を3ヶ月使うと、痛みのスコアは90%下がった。」場合

  2. 「有意差はあり。B病に薬を3カ月使うと、痛みのスコアは20%下がった。」場合

見た目では、①の方が効き目がよさそうですが、有意差がないということは、、、「自然治癒」でも同程度の結果となったはずということがわかります。逆にいうと、薬による痛みの軽減は20%程度ですが、治療しなかった場合、痛みは同程度まで軽減しなかったことがわかります。


たしかに90%下がれば、医療者も患者さんも嬉しいですが、実際は「自然治癒だった」ということもあるのです。20%程度しか下がっていないように見えても実際はしっかり効果があったということもあるため、イメージだけで安易に判断すべきではありません。


また、「効果がある=完治」ではありません。


効果があるものはなんでも応用すれば良いか?

実際に「効果がある」ということが分かった場合、なんでもかんでも臨床応用すればよいのか?というと、、、必ずしもそうではありません。例えば、半年間治療をして血圧が1しか低下しないなど微々たる恩恵しか得られないような場合は、治療方法として選択すべきではありません。


また、鍼で反射を誘発して一時的に血圧降下を起こす方法がありますが、治療前後を比較するような研究モデルでは「効果あり」となるはずです。しかし、この方法は、短時間で血圧はもとの状態に戻ってしまいます。中長期的に安定した血圧を保つ必要がある患者さんに対して、あまり適切な方法とはいえません。


そのほかに、副作用が強い場合も安全面の問題から応用が躊躇される場合もあります。効果のあるなしも重要ですが、実際に応用できるかは都度精査する必要があります。


経験に基づく医療は?

こういったEBM(根拠に基づく医療)は、経験に基づく医療を否定するために存在するわけではありません。なかには、どうしても現代の手法では研究が難しいという研究対象(治療方法)も存在するわけです。例えば、東洋医学の脈診はどうでしょうか?数値化することはなかなか難しいはずです。


また、直感的な治療方法の選択も臨床現場ではあってよいはずです。タイムリーな話では、新型コロナウィルスの治療方法は確立されていませんが、実際には試行錯誤をしながら対応しているはずです。「十分な研究がされていないから治療しなくてよい!」とはならないはずです。


さいごに

EBMを理解した上で適切に運用・応用することが重要です。また、医療を受ける側も十分な説明を受け、医療の本質を理解した上で治療方法を選択することが求められています。

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