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  • 執筆者の写真三焦はり院

末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の開始時期

更新日:1月19日

末梢性顔面神経麻痺に対して、鍼治療を検討する場合、「いつから始めたほうがよいか?」という疑問があると思います。当院では、「急性期のステロイド治療等を終えた後から開始すること」をすすめています。某予備校の先生の名言ではありませんが、「今でしょ。」というのが答えです。


なかには、「(様々な理由から)まずは自然経過に任せて、回復が困難となった場合に鍼治療を再検討する」という考えの方もいるかもしれません。もちろん、ENoG検査(どのくらい神経が生きているか調べる検査)で40%を超えるような軽症例では、自然経過でも2カ月程度で治癒すると言われていますが、中等症以上の場合は後遺症の可能性があるため注意が必要です。また、柳原法のみ(ENoG検査をしていない)の場合、発症1カ月で30点を超えない時点で「軽症例ではない可能性が高い」です。また、初回の柳原法で10点以下の場合、「中等症以上の可能性が高い」ため、当院では「(理由なく数カ月待つようなことはせずに)早期からの鍼治療」をすすめています。


麻痺などの脱神経症状では、一般的に「障害度と比例してスコアが下がり、障害度と比例して回復期間がかかります」。2か月で回復しない場合、軽症例とは考えづらく、発症3カ月経過したころから後遺症が出現します。6ヵ月が経過したころには後遺症が出現・残存していると予測します。「麻痺に加え後遺症がある状態」と「麻痺だけの状態」を比較すると、複雑化している症例(前者)のほうが忍耐を要することは自明の理です。


病的共同運動(勝手に目が閉じるなど後遺症の一つ)もミラーバイオフィードバック法(MBF法、鏡をみながら顔を動かす方法)で改善が可能と言われていますが、ある程度の時間と労力が必要となります。また、病的共同運動の程度が強い場合は、顔が勝手に動いてしまうためMBF法を行うことができません。重症例では病的共同運動を軽減する必要があるため、ボトックス注射などの治療が更に必要になることがあります。


そのため、「早期から質的・量的に十分な治療を総合的に行うこと」が大切です。後から、「やっぱり早期から鍼もやっておけばよかった・・・。」と考えても、時間は元には戻りません。また、回復曲線も時間経過とともに緩やかになるため、モチベーションが保てずドロップアウト(自己中断)しやすくなります。


当院では、週2回の鍼治療を提案し、鍼施術とセルフケア指導(MBF法含む)を行っています。後遺症発症の前兆である「細かな痙攣」なども一緒に確認しながら、後遺症予防に努めています。また、回復している箇所も併せて細かくお伝えしながらモチベーションを保てるように努めています。


そのほか、一般的に、「半年~1年を経過したような症例は改善しない」と思われがちですが、実はそうとも限りません。とくに、鍼治療をしていない場合、新しい刺激で回復が促されることもあります。また、1年を経過した症例でも改善が認められる場合、まだ伸びしろがあると言えます。年齢的に若い方は、神経の回復力が比較的高いため、改善がみられる場合があります。

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