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  • 執筆者の写真三焦はり院

末梢性顔面神経麻痺のセルフケア実施期間

末梢性顔面神経麻痺のセルフケアの実施期間ですが、病的共同運動(口を動かすと目が閉じるなど)の後遺症予防には「発症から最低1年間はミラーバイオフィードバック(MBF法、鏡をみながら顔を動かす方法)を継続するように」と言われています。


後遺症の可能性がある場合(とくにENoG検査で40%を超えない、中等症以上)は、改善が見られた後も、セルフケアをしっかり継続する必要があるわけです。「表情筋が全体的に動き出したあと」、「ほとんど治癒となったあと」などはセルフケアを怠りがちですが、状態を問わずに1年間はセルフケアを継続することが大切です。


◆ENoG検査:

非麻痺側と比較し、活きている神経の割合を算出する検査。予後判定に用いられ、発症から10~14日に計測されたデータの信頼性が高い。


後遺症である病的共同運動は、発症後3カ月~6か月頃に出現し、1年程度掛けて進行していく可能性があると言われています。ちょうどこの時期は神経機能の回復がみられるため、回復とともに神経の混線が起きる可能性が高まります。神経の混線を起こさないためにも、機能回復とともにMBF法を実施していきます。一般的に毎日15分程度(可能な動きの種類によって加減する)を朝晩2回実施することで、眼瞼裂の狭小化(口を動かすと目が閉じる)などの予防が可能と言われています。


MBF法を毎日継続することはもちろん大切ですが、「とりあえずやってみた」とはならないように、「こなすというよりは、取り組むように心掛けること」が大切です。また、「動け!動け!と力強く動かすということはせず」、「適切なフォームを心掛け」、「(麻痺側の可動域に合わせて)左右対称に」、「ゆっくり、丁寧に、やさしく実施すること」が大切です。MBF法の目的と機序は、「顔面神経の枝を正しく伸びていくように、脳からの信号を正しい経路で流すこと」です。


顔を動かそうとすると、脳(中枢)からの「動け!」という信号が顔面神経(末梢)に届きます。信号が届くと、顔面神経の活動は活発になり、届いた信号の通りに神経の枝を伸ばしていきます。「目を動かせば、目の周囲へ」、「口を動かせば、口の周囲へ」と神経の枝が伸びていくわけです。「目に行くべき神経の枝はそちらへ、口に行くべき神経の枝はあちらへ、、、」といった具合に、方向指示を出すような感覚で実施していきます。強い力で必要以上に動かす必要はありません。「こんなものかな?」程度の力加減でリラックスして行いましょう。


では、目と口を同時に動かすとどうなるでしょうか?答えは、「目と口の周囲に同じように神経の枝が伸びていく」と言われています。これが神経の混線であり、いわゆる病的共同運動の発現機序です。


そのほか、可能であれば食事時に咀嚼する場合も「咀嚼は丁寧にやさしく、咀嚼中はしっかり目を開けて目を閉じない」などの意識付けが大切です。「表情を大きく作って笑ったりするような動作」も控えたほうが良いと言われています。大変ですが、いわゆる「日常的に行っている動作をなるべくコントロールすること」が大切です。


中には、「そんなに長い期間もセルフケアをしたくない!」と感じる方もいるかもしれませんが、後遺症発症となるとより長い時間を忍耐に強いられる可能性が高まります。そうならないように、発症後1年間は適切なケアを実施するように心掛けてください。


さいごに、「なぜ軽症例では病的共同運動が発生しづらいか?」というと、「神経断裂を疑う中等症以上」とは異なり、「単なる神経の一時的な機能不全の可能性が高い」と言われています。一時的な機能不全であれば、局所循環が改善すると神経機能が回復するため、神経の枝を伸ばして神経断裂を修復する必要はないわけです(別回路の必要がない)。


そのため、軽症例と中等症以上では病態に違いがあり、麻痺の症状は同じでも異なったアプローチを行う必要があるわけです。ただし、ENoG検査を実施していない場合は、どの程度の神経損傷かわからないため、必ずMBF法を継続的に実施しましょう。また、神経損傷が高度な場合は、MBF法を行っても後遺症がゼロとは限りませんが、後遺症の程度をより軽くすることがQOL(生活の質)の面で大切です。


◆MBF法のポイント

  1. 表情筋の動きが出始めたころから、または3カ月頃から開始

  2. 基本は口をウー・イー・プーの動き(出来ない動作はしない)

  3. 朝晩に15分づつ行う(可能な動作に合わせて適宜加減)

  4. 目を開けたまま行う(目を閉じない、眼瞼裂は左右対称)

  5. 小さい動きから始める

  6. 動作はゆっくりと丁寧に

  7. 力を込めずにリラックスする

  8. 左右対称を目安に動かす

  9. 可動域は麻痺側に合わせる

  10. 口の形を作った後に少しの間止める

  11. 下眼瞼の痙攣などがみられる場合は運動の出力を抑える

  12. 代償性の運動(口を開くために首筋に力を込めるなど)は行わない

  13. 筋力トレーニングではなく、イメージトレーニングとフォーム確認

  14. 回復後も発症から一年経過までは継続する

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