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  • 執筆者の写真三焦はり院

〇〇療法は根本治療だから現代医療よりも優れている?という落とし穴。

更新日:2019年3月10日

よく「〇〇療法は根本治療だから現代医療より優れている!」というようなことが巷ではまことしやかに言われています。


とくに、この「根本治療」という言葉が、あたかも「根治する治療体系」などとミスリードを誘う方法で用いられている場合が多いような気がします。


実際のところはどうなのでしょうか?


1.すべての疾患が根治できるとは限らない

若い時は健康で、、、ということはよくあります。統計上でも、若年層(10代~30代)が高齢者層よりも身体的に丈夫で、総じて健康であることはよく知られています。また、年齢が高くなれば、免疫力の低下や、心肺機能など身体機能の低下がみられるといったことは常であると言えます。


腰痛ひとつとっても、高齢者では急性腰痛(捻挫、筋肉痛など)よりも圧倒的に慢性腰痛(変形性腰椎症:腰部ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症)を罹患されている場合が多いはずです。


慢性疾患はなぜ起こっているのでしょうか?そして、なぜ治らないのでしょうか?


老化と関係のある「(慢性)退行性病変」や徐々に悪化していく「進行性疾患」はほとんどの場合「根治」はありえません。


「現代医療=対症療法」ではなく、上記の場合では「対症療法しか行えない」ことが多いのです。

2.退行性病変は根治しない場合が多い

「退行性病変」は老化と関係があります。いくらアンチエイジング(抗老化)を行って相対的な若さ(同年代よりも若い程度)は手に入れても、絶対的な若さは手に入りません。80歳を超えても、10代と同じ身体能力を持っている、、、なんてことはありません。


退行性病変には、「変形性膝関節症(膝OA)」などが含まれます。膝OAは、軟骨がすりへったり、関節自体に骨の過形成(骨棘)が起き、痛みが出てきた状態です。もちろん、すりへった軟骨はもとにもどりません。


そのため、「退行性病変」の場合は「保存療法」が第一選択となり、「痛みのケア」などを行い、生活の質の改善を行います。


また、膝OAでは、人工関節置換術(手術)を行う場合もありますが、「根治」するとは限りません。


3.進行性疾患は根治しない

進行性疾患は名前と同じように、一般的には不可逆的に進行していきます。


例えば、アルツハイマー型認知症(AD)やパーキンソン病などは中枢神経(脳・脊髄)に変性をきたす進行性疾患です。神経変性疾患も老化と関係が深いと言われています。老いたからといって、腎臓のように他から移植することもできません。そのため、現代医学的には根治は難しいとされています。


4.「本治療」をしているから根治するわけではない

鍼灸を例に挙げると、、、東洋医学的用語に「本治療(俗にいう根本治療)」「標治療(俗にいう対症療法)」というものがあります。「本質的な改善を目指す本治療」そして「随伴症状に対する標治療」と言われています。しかし、誤解を生みやすいですが「本治療」を行ったからと言って、「根治(完全に健康な状態まで治る)」するわけではありません。


東洋医学的なカテゴリー分け(証:東洋医学的な病気の分類)は、誰に対しても可能です。そして、カテゴリー分けを行った結果に基づいて「本治療」と「標治療」を行います。現代医療のような「検査結果や数値上異常なし」または「対症療法しか行えない」ということは、ほとんどありません。俗にいう「東洋医学は根本治療主体」という話はこういった処から発生しています。


そのため「本治療・標治療」は方法や手段であって、「結果:根治するかしないか」とは全く関係がないのです。そして、現代医療と東洋医学は全く別の治療体系です。違いがあって当然です。ある疾患に対して、現代医療では対症療法しか行えないからと言って、本治療を行える東洋医学が優れているわけではありません。

5.ミスリードをしない、バイアスで物事を考えない

「根本治療(原因治療)」と「対症療法」に優劣はありません。


「根本治療=根治する治療体系」とミスリード(恣意的錯誤)をさせ、あたかも「根本治療」を行うことが優れているといった表現は適切ではありません。こういった「間違った医療情報」は、患者の適切な医療機関への受診や治療の妨げになります。


その他によくある文言は、、、

1)「病院では対症治療薬しか出さない」→「治す気がない。お金儲けだ」

2)「手術や薬物療法は体に悪い」→「自然療法の方がよい」


こういった時には、以下のことを考えてみてください、、、

1)対症療法しか選択肢がない場合、対症療法は不必要だといえますか?

2)手術や薬物療法が第一選択の時に、あえて自然療法(はりきゅう含む)を行う必要がありますか?


感染症に対し、抗菌剤や消炎鎮痛剤を処方することは「対症療法」ですが、こういった場合「治る」ということは結果でしかなく、「対症療法」だから良いか悪いかという話ではありません。一般的な風邪であれば数日で軽快するはずです。これも「根治」と言えるのではないでしょうか?


「根本治療=根治する治療体系」や「対症療法≠治らない治療体系」では決してないのです。イメージから連想するバイアス(偏見)だけで「根治する?しない?」を決めつけることは危険だと言えます。

6.鍼灸の立場から

鍼灸も誤解を受けやすい療法の一つです。あたかも万能薬のような、または魔術のような風に思われている方もいるかもしれません。しかし、決してそのような摩訶不思議なものではありません。


よく言われてしまうことが、、、

「自費の鍼灸であれば1回で根治しますよね?」

「鍼灸は何の病気にも効きますよね?」

ですが、、、答えは「体質や症状による。」です。


鍼灸療法だからといって、すべて根治するわけではありません。「痛みのケア」には「対症療法」として施術する場合もあります。


鍼灸療法も医療体系の一つです。現代医療と同じように万能ではありません。しかし、昨今推奨されている統合医療の観点から鑑みると、鍼灸療法も代替医療(「現代医療+α」)のひとつとして十分活用すべきであると思っています。


7.より健康になるためには、どうすべきか?

「治るか治らないか?」も重要ですが、まずは、どのような方法が「第一選択的治療方法」であるか?ということが最も重要です。


もし風邪など感染症になった場合、抗菌薬や消炎鎮痛剤が第一選択であるならば、まずはそちらを試すべきです。あえて優先的に「はりきゅう」「整体(そもそも無資格なので、選ぶ必要がない)」を試す必要はどこにもありません。


鍼灸師は何でも「鍼灸」で何とかするだろうと思われがちですが、私もまずは第一選択的治療法(一般的には現代医療)をおすすめします。そのうえで、「鍼灸療法を併用したい」または「現代医療は一通り試したが成績が著しくない場合」など、そういったケースでは鍼灸療法をおすすめしています。


8.最後に

現代医療以外では、国家資格のある療法(はり・きゅう・あんまマッサージ指圧など)を選びましょう。間違っても症状改善や治療目的で「整体」「カイロ」など無資格の療法は選ばないようにしましょう。※〇〇協会認定などの「民間資格」は無資格と同じです。

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